Economist Column No.2026-055
予算編成で強まる財政制約 ― 長期金利上昇と「通年の国債発行額」 ―
2026年08月24日 井上肇
■金利上昇が政策余地を削る
長期金利が3%に迫り、2027年度の予算編成は金利上昇を無視できなくなった。日本の新発10年国債利回りは8月18日、一時2.945%と1996年9月以来の高水準を付けた。市場では、円安や原油高によるインフレ懸念、日銀の追加利上げ観測、海外金利高に加え、財政拡張と国債増発への警戒も意識された。
金融政策の正常化を財政上の都合で遅らせるべきではない。利上げは予想短期金利の上昇を通じて長期金利を押し上げうる一方、適時の対応がインフレ期待を抑えれば、長期金利の中期的な安定に寄与しうる。財政負担への配慮で、日銀が物価安定上必要と判断する対応を遅らせたとみられれば、中央銀行の独立性への信認を損ないかねない。
金利上昇は借換えを通じて国債費を徐々に増やし、新規施策の余地を狭める。2026年度当初予算の積算金利は3.0%、国債費は31.3兆円だった。報道によれば、2027年度概算要求は積算金利3.8%、国債費36兆円台となる方向である。物価上昇が定着し、税収は上振れる傾向にあるが、税収増の一部が国債費の増加で相殺されれば、政策余地は広がりにくい。
■国債管理政策は万能ではない
米国でも大幅な財政赤字と長期金利の高止まりが併存している。IMFの2026年予測では、一般政府総債務残高は日本がGDP比204.4%、米国が125.8%、財政赤字はそれぞれ2.0%、7.5%である。
米財務省は8月19日、残存10~20年と20~30年の名目利付債について、9月9日から買い戻し上限を1回20億ドルから少なくとも40億ドルへ引き上げると発表した。公式の目的は流動性支援である。こうした国債管理は市場の流動性や年限別の需給を調整する手段となるが、財政問題そのものを解消するものではない。
■財源の質と投資選別
2027年度予算では財源需要が重なる。飲食料品の消費税率を1%に2年間引き下げる案には、年間5兆円規模の財源が必要と報じられている。防衛関連経費は、仮に算定基準のGDPを現行計画の2022年度から2026年度に置き換えて試算すると、同じ対GDP比2%でも、2026年度の関連経費から3.2兆円の上積みが必要になる。ガソリン税・軽油引取税の旧暫定税率廃止と教育無償化でも、必要財源のうち0.7兆円分が未確保とされ、危機管理・成長投資も加わる。
財源候補は一律には扱えない。税収上振れや外為特会剰余金、基金の不用額返納は毎年安定して見込めない。一方、補助金の削減や租税特別措置の縮小が恒久的なら、継続財源になり得る。
概算要求総額だけで財政スタンスは決まらない。「強く豊かな日本」投資枠では要求上限を設けない一方、政府は成長への寄与や民間投資の誘発効果を踏まえて施策を重点化し、実施後も効果を検証・見直す方針である。
成長投資による将来税収は、査定時点で確定した財源ではない。効果が想定を下回れば、財政負担だけが先行して残るため、投資効果を慎重に見極める必要がある。一方、政府は経済安全保障上特に重要な分野について、複数年度で財源を確保した上で、特別会計で別枠管理する方針である。
■「通年の国債発行額」が実質的な制約に
骨太方針2026は、市場の信認に配意しつつ「通年の国債発行額」などを具体化するとした。恒常施策を当初予算に移す以上、発行額が年度全体でどこに着地するかが重要になる。一般会計の新規国債発行額は、2024、25年度の補正後で42.1兆円、40.3兆円だった。この40兆円程度は制度上の上限ではないが、2027年度の通年発行額を考える一つの比較基準になる。発行額が過去の水準から大きく増える場合には、市場がどう受け止めるかを見極める必要がある。
安定財源を確保できない政策を実施すれば、その分だけ新規国債の発行圧力が強まる。政府が発行額の着地点を意識すれば、減税・防衛費の財源策や危機管理・成長投資の措置額を精査せざるを得ず、実質的な制約になる。
日本も、長期金利や入札需要に表れる市場の警告を軽視すべきではない。「通年の国債発行額」の着地点は、政府の受け止め方を映すものとなる。
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