Economist Column No.2026-053
外国人政策:永住許可の厳格化をどうみるか ~長期的観点と経過措置の二面作戦を~
2026年08月18日 石川智久
■外国人への永住許可は厳格化の方向
先般、政府は永住許可に関するガイドライン改定案を公表し、パブリックコメントに付した(9月3日まで)。結論からいえば、今回の改定案は永住許可の運用を厳格化する方向性を示したものといえる。具体的には、申請者の収入について、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準に継続して達しているかを確認するとしている。現行の具体的な基準額は公表されていないものの、単身者では年収300万~350万円が目安とされてきた。日本人の平均給与が450万~500万円程度であることを踏まえると、相応に大幅な基準引き上げとなる可能性がある。また、将来の年金受給見込額について、上記の年収水準で30年間厚生年金に加入していた場合に相当する水準に達しているかを新たな条件とする方針である。さらに、日本人・永住者の配偶者等については、これまで婚姻期間3年かつ本邦在留期間1年で特例的に永住を認めていたところ、それぞれ5年、3年へ伸長する。日本語能力や日本の制度への理解も評価対象に加える方針である。
永住許可は、無期限に国内での在留を認めるものであり、他の在留資格に比べて厳格に運用すること自体は当然といえる。海外でも、外国人の居住や移民受け入れをめぐる世論は、かつてほど寛容ではなくなっており、永住権を含む在留資格について厳格化の方向がみられる。とりわけ、先般、スペイン領セウタに多数のモロッコ人が流入した背景には、スペインが外国人在留に比較的寛容な国とみられていたことも一因とされる。こうした事例を踏まえると、欧州では永住権を含む在留資格を一段と厳格化する方向性が強まっている。今回の方針は、秩序維持を重視する国際的な潮流とも整合的であり、方向性としては理解できる。とくに、日本語能力や日本の制度への理解を重視することは、外国人が日本社会に円滑に溶け込むうえで重要な視点といえる。
もっとも、課題も少なくない。まず、今回の厳格化の理由として、永住者の生活保護受給率の高さが挙げられている。しかし、永住許可の在り方を検討するにあたって、他により適切な指標や観点はなかったのかについては、丁寧に検証する必要がある。また、政府は本年10月からガイドラインを実施する予定としており、収入要件については4月に遡って適用するとしている。過度な遡及適用は法律論上の問題を生じさせる恐れがあるだけでなく、現行制度を前提に準備を進めてきた外国人にとっては青天の霹靂となりかねない。パブリックコメントへの回答においては、こうした点について十分な説明を尽くすことが重要であろう。
■厳格化と経過措置の組み合わせが必要
では、永住許可について、どのような政策対応が求められるのか。まず、AIが将来的に雇用へ大きな影響を及ぼすとみられるなか、国内雇用を守る観点から、外国人の受け入れには慎重な制度設計が求められる。経済産業省の「2040年の就業構造推計(改訂版)について」(2026年3月)によれば、「2040年に十分な国内投資や産業構造転換が実現する場合、人口減少により就業者数は約6,700万人(2022年)から約6,300万人となるが、AI・ロボット等の利活用やリスキリング等により労働需要が効率化され、全体で大きな不足は生じない」とされる。一方で、「職種・学歴・地域間では需給ミスマッチが生じるリスクがあり、事務職(約440万人)や文系人材(約80万人)が余剰となる一方、AI・ロボット等の利活用人材(約340万人)を含む専門職や現場人材(約260万人)、理系人材(約120万人)が不足する可能性」が指摘されている。こうした試算を踏まえると、2040年以降も滞在できる永住許可については、日本で不足が見込まれる職種・人材に一定程度重点を置くことは、国内雇用を守る観点からも意味がある。さらに、日本人への学校教育の適正化やリスキリングを強化すれば、不足する労働者数は一段と抑制され、外国人労働者に依存する必要性も低下し得る。足元の人手不足は大きな問題であるものの、長期的には技術や社会情勢の変化も踏まえて政策を立案する必要がある。
一方で、既存の制度を前提に準備を進めてきた外国人への配慮も欠かせない。そのためには、一定の経過措置を設けることが必要であろう。永住許可制度の見直しにあたっては、長期的な労働需給や社会統合の観点から厳格化を進める一方、短期的には制度変更に伴う不利益を緩和する措置を講じるべきである。短期と長期の双方を見据えた外国人政策が求められている。
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