Economist Column No.2026-047
移民政策を巡るスペインの混乱からの示唆 ~「移民・難民の武器化」に備える視点も重要~
2026年08月04日 石川智久
■欧州の中で異彩を放つスペイン
欧州の多くの国では近年、移民政策を巡って国内世論が分断の様相を呈するなか、極右政党が台頭する事態となっており、これまでよりも移民に対して厳しい対応を取るようになっている。そうしたなか、逆に足元で移民に寛容な政策をとっている国がスペインである。スペインでは介護、農業、宿泊・飲食業等の産業で人手不足が慢性化しており、それを是正するための移民政策という色合いが濃い。
まず、不法滞在状態にある外国人について、犯罪歴がないなどの一定の条件を満たせば申請に基づいて合法とする救済制度を導入した。6月30日に申請期限を迎えたが、申請者は当初想定の50万人を大幅に超える117万件となった。
こうしたなか、7月にはアフリカのモロッコからおよそ6万人の不法移民がモロッコ隣接の飛び地であるスペイン領セウタに押し寄せた。同地の人口は8万4000人であり、当然ながら6万人の来訪は大混乱をもたらし、スペイン政府は軍を派遣せざるを得ない状況に陥った。同政府は、こうした事態を招いたのは、スペイン最高裁が「海を泳いで入ろうとした移民をモロッコ側へすぐに送還することは法的に認められない」という判決を出したことに端を発し、密航をあっせんする犯罪組織がそれを悪用してモロッコ人を扇動したためであるとし、前述の不法滞在者の救済制度は関係ないとの見解を示した。もっとも、不法移民救済制度が、移民の送り出し国やあっせん業者等に「スペインは不法移民に寛容な国」というイメージを植え付けたことが原因と見る人も多い。
また、EU諸国では、スペインに入国した移民がEU域内での自由な移動を定めたシェンゲン協定を利用して自国に入ってくることを警戒しており、スペインの移民政策を厳しい目で見ている。例えば、イタリアはスペインとの間でシェンゲン協定を1カ月停止して、スペインからの渡航者を対象に入国審査を復活させている。このようにスペインの移民政策は、国内だけでなく、EUの結束にも不協和音を生んでいる。
■日本に対する教訓は何か
こうしたことから日本はどのような教訓を得るべきであろうか。世界的に移民政策を厳格化する方向にあるなか、政策対応が杜撰であったり、間違ったイメージを発信したりすると、意図する目的に合致しない移民が押し寄せるリスクがあるということではないか。かつて、EUと敵対するロシアやベラルーシが、中東からの難民をEU諸国に送り込んで意図的に混乱を生じさせる「移民・難民の武器化」が問題化したが、それが今後も起きうるということである。
日本政府としては、外国人との「秩序ある共生」を進めており、日本人と外国人の間でwin-winの関係を築こうとしている。同時に、不法移民等に対しては、人権に配慮しながらも、毅然とした対応をとっていくことを世界中に発信し、「スペインの二の舞」とならないようにしていく必要がある。現在、日本政府は「不法滞在者ゼロプラン~強力推進パッケージ~」を進めているが、これを国内外の情勢に合わせて随時アップデートしていくべきである。
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