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Economist Column No.2026-045

骨太方針2026の債務比率目標はPB管理と一体で ― 「責任ある積極財政」を支える三つの検証 ―

2026年07月22日 井上肇


■投資拡大は財政規律と一体で進めよ
7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針2026)」で財政運営の方向性が示された。6月30日の原案公表後、日銀の利上げをけん制するとの受け止めや、危機管理投資・成長投資を柱とする積極財政への警戒が市場で広がるなか、長期金利は一時約30年ぶりの水準に上昇した。このうち積極財政への警戒は、投資拡大と財政規律の両立を明確に示す必要性を浮き彫りにした。次に問われるのは、2027年度予算編成での具体化である。
骨太方針2026では、「国・地方の総債務残高対GDP比の安定的低下」が財政運営の中核目標とされた。基礎的財政収支(PB)は、債務比率の低下に向けて確認する指標とされ、単年度の黒字化時期を機械的に追わず、債務比率の安定的低下と整合するよう複数年で管理することとなった。あわせて、2027~40年度を対象とする「中長期経済財政計画」、「強く豊かな日本」投資枠、恒常的施策の当初予算化と補正予算依存からの脱却も盛り込まれた。同計画を規律として機能させるには、債務比率の目標水準・達成時期、歳出規模・国債発行額の目安の具体化が必要である。
人口減少や人手不足、経済安全保障上のリスクを踏まえれば、供給力強化に資する国内投資の後押しは妥当である。「日本成長戦略」は、17分野・62の主要な製品・技術等について、2040年度までに累計370兆円超の官民投資を現時点で想定している。ただし、これは官民合計であり、うち国費の規模や個別財源は今後の予算編成等で精査される。予算に反映する際には、投資が供給力強化につながるかを見極め、追加歳出後のPBや国債発行額が債務比率の安定的低下と両立するかを示すべきである。
今後の「中長期経済財政計画」の検証では、①PBの改善見通し、②債務比率低下の背景にある負担の所在、③危機管理投資・成長投資の政策効果を点検し、その結果を中長期の財政運営と各年度の予算編成に反映させることを提案したい。

■PBの改善見通しは金利・成長率で検証せよ
債務比率を中核目標に置いても、複数年でのPB改善・黒字化への道筋は維持する必要がある。債務比率はPBに加え、名目成長率や実効金利にも左右される。名目成長率が実効金利を上回れば、一定のPB赤字でも債務比率は下がり得る。ただし、成長率下振れや金利上振れで許容されるPB赤字の幅は狭まり、実効金利が名目成長率を上回る局面では、債務比率を下げるには原則としてPB黒字が必要になる。
したがって、楽観的な成長率や金利を前提にPB赤字を正当化すべきではない。今後の「中長期経済財政計画」の検証や内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」では、成長率、金利、政策効果が想定から外れた場合に、PB、財政収支、利払い費、国債発行額、債務比率への影響を示す必要がある。その上で、毎年度、最新の経済・財政情勢を踏まえて計画期間にわたるPB見通しを更新し、債務比率の低下と整合しない場合の対応も明らかにすべきである。
なお、経済安全保障上特に重要な分野については、つなぎ国債の対象となる経費・財源をPBや債務比率等の指標から除いて別枠管理する仕組みも設けられた。市場や国民への説明では、公式指標に加え、別枠分の経費・財源、つなぎ国債残高と償還見通しを丁寧に説明すべきである。

■債務比率低下は負担の所在も点検せよ
債務比率の低下は、負担の所在とあわせて確認すべきである。拙稿(井上[2026])では、物価上昇で名目GDPが膨らみ、既発債務の実質価値が下がる場合、政府の債務負担は実質的に軽減される一方で、現預金や固定利付債権の実質価値が目減りし、名目所得の伸びが物価に遅れれば家計の購買力も低下し得ると指摘している。このように、債務比率の低下が、民間の資産や所得の動向によっては、インフレ税や債権者・預金者から政府への所得移転を伴っていないかも検証しなければならない。

■投資枠は民間投資の誘発と効果で選別せよ
「強く豊かな日本」投資枠は、恒常的施策の当初予算化とあわせ、危機管理投資・成長投資を複数年度で実施しやすくする点は評価できる。中長期にわたる施策を補正予算に依存すれば、政府予算の予見可能性が低下し、民間の投資判断にも影響し得るためである。同投資枠は、予算要求の上限を設けず、事項要求も含めて所要額を要求できる。投資枠が踏まえる官民投資ロードマップは17分野・62項目に及ぶだけに、国費投入には濃淡を付ける必要がある。
成長投資では、民間投資の誘発や生産性・税収への影響、人手・設備の供給制約、社会実装の見通しを確認すべきである。危機管理投資では、供給途絶や災害への対応力、重要インフラの継続性を確認すべきである。各府省は概算要求時に政策目的、成果指標、費用対効果等を示し、財務省は査定で事業を精査する必要がある。
執行後の検証について、骨太方針は、EBPMを予算編成、執行、点検、翌年度以降の予算への反映を一体で進めるツールとして活用するとしている。各施策の目的、対象、成果指標、実績データ、費用対効果を明確にし、政策効果を継続的に把握する方針である。こうした仕組みを投資枠の事後検証に組み込み、進捗や中間成果を踏まえて中長期的な政策効果を追跡することを提案したい。十分な効果が見込めなければ、規模、手法、継続の可否を見直す必要がある。
「責任ある積極財政」とは、必要な投資を先送りしない一方で、財源・負担・効果の検証も先送りしない財政運営である。追加歳出後のPBでフローの財政規律を確かめ、債務比率低下の裏側にある負担を点検し、政策効果の検証結果を翌年度以降の予算編成と政策改善につなげる。この仕組みがあって初めて、供給力強化に資する危機管理・成長投資と財政規律の両立が可能になろう。

参考文献
・井上肇[2026].「債務比率低下の中身を問う―PBで確かめる財政規律、見落とせない負担の所在―」日本総合研究所、リサーチ・フォーカス、No.2026-020.


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