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Economist Column No.2026-044

猛暑ビジネスからみる温暖化への「適応」と今後の課題

2026年07月22日 大嶋秀雄


■初の「酷暑日」 ― 温暖化に起因する異常気象等の増加
人為起源の温室効果ガス(GHG)の排出を背景に、世界全体として気温の上昇が続いており、激しい風水害や深刻な干ばつ、山火事など、様々な問題を引き起こしている。本年も、欧州で40℃を超える顕著な高温が頻発して、多くの死者が発生している。
わが国においても、7月21日に岐阜県多治見市などで最高気温が40℃以上となり、初の「酷暑日(最高気温40℃以上の日、本年4月に名称決定、注1)」となった。酷暑日は、2017年までは観測される年の方が少なかったが、2018年以降、9年連続で観測されており、昨年は、過去最多の30地点で観測された。
人間は、発汗の効率化等によってある程度の暑さには"慣れる"(暑熱順化)ことはできるが、身体機能として、活動に適した気温には上限がある。温暖化は長期にわたって進んできているが、近年、欧州やわが国においても、人間にとって活動に適さない高温が発生しやすくなっている。
高温は、広域かつ高頻度で発生するため、多くの地域が被害を受ける。わが国の熱中症救急搬送人数は、2010年頃まで年1~5万人だったものが、昨年は10万人を超えた。2021年から全国運用が始まった「熱中症警戒アラート」等による注意喚起や、昨年6月施行の改正労働安全衛生規則による企業に対する熱中症対策の義務化など、各所で熱中症対策が推進・強化されているが、熱中症の増加に歯止めをかけられていない。

■猛暑による経済影響 ― 多方面に悪影響
猛暑は、熱中症等の健康被害だけでなく、経済活動にも悪影響を及ぼす。以前は、「夏は暑い方が経済活動は活発化する」といわれていたが、近年は、「猛暑は経済活動を抑制する」との見方が多い。実際、近年は、夏場において、屋外テーマパークの来場者数の減少や、外出控えによる小売・サービス業等の売上の減少などがみられる。
企業の生産活動にも悪影響を及ぼしている。熱ストレスにさらされる職場では、熱中症対策でこまめな休憩が必要となり、就労可能時間が減少している。簡易的な試算では、近年、東京における7~8月の日中の就労可能時間は約2割減少する結果となった(注2)。こうした労働者への影響以外にも、農作物の高温障害や、海水温の上昇による水産業への影響も顕在化している。帝国データバンクが7月に実施した企業向けアンケートによれば(注3)、半数の企業が猛暑で業務に支障が出ており、とくに、建設業、農・林・水産業、運輸・倉庫業などで「支障が出た」との回答が多い。
社会インフラへの被害もみられる。たとえば、高温による線路のゆがみによって鉄道運行が乱れたり、アスファルトの軟化による道路の破損・変形なども発生している。フランス等では、内陸部の原子力発電所において、冷却水に使用している河川の水温上昇によって原子炉が停止する事態も起きている。
こうした影響は、今後、温暖化が進むことによってさらに深刻化する可能性がある。

■「猛暑ビジネス」の広がり ― 温暖化への「適応策」
温暖化への対策には、GHG排出量を削減して温暖化を抑制する「緩和策」と、温暖化に起因する異常気象等による被害を回避・軽減する「適応策」がある。温暖化を止めるためには、世界全体としてGHG排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル(CN))にする必要があり、各国・企業において様々な取り組みが進められてはいるが、今のところ、世界のGHG排出量は増加を続けており、CN実現の道筋はみえない。一方で、温暖化は着実に進み、各地で様々な問題を引き起こしており、「適応策」の重要性が高まっている。緩和策は長期的な観点での対策が多いが、適応策は高温や干ばつ、山火事、農作物の生育不良など差し迫った問題に対して短期的な対策が求められることが多い。
実際、近年、わが国では「猛暑対策」の需要が高まっている。たとえば、個人向けでは、日傘や携帯扇風機、冷却グッズなどの販売が伸びており、企業でも、ファン付き作業服や健康管理ウェアラブル端末、送風機・スポットクーラー、遮光ネット、空調付き休憩所、遮熱塗装などを導入するケースが増えている。欧州や新興国ではエアコンの需要が増大している。また、一部の保険会社は、猛暑・豪雨による売上減少に対する保険なども提供している。こうした「猛暑対策」は適応策の一種といえる。
緩和策では脱炭素製品・サービス等の需要創出が課題になることが多いが、猛暑対策については、眼前の問題への対策としての必要性や緊急性、効果の分かりやすさなどから、需要が発生しやすく、足元では「猛暑ビジネス」が広がっている。

■適応策の課題 ― 対策コストの価格転嫁、リスクへの備えの難しさ、インフラ整備の負担
「猛暑ビジネス」は広がりをみせているが、適応策が円滑に進んでいるわけではなく、様々な課題も明らかになっている。
まず、対策コストの「価格転嫁」の難しさがある。猛暑対策を行う企業では、生産性の低下や対策コストの増大が問題となっている。とくに、大きく影響を受けている建設業については、昨年12月に国交省が「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」等を発表し、発注段階における猛暑日を考慮した工期設定や熱中症対策に係る経費の充実、省人化対策(i-Construction2.0等)の推進などを示しているが、依然として、価格転嫁の難しさや休工期の収入減少などが指摘されている。政府・自治体や大企業、業界団体などがリーダーシップを発揮して、対策コストを価格に転嫁する仕組みを根付かせるとともに、省力化・自動化の促進等による休工発生の回避・縮小や、労働者の所得確保に向けた仕組み作りなどを進める必要がある。
次に、水災等の「リスクへの備え」の難しさがある。猛暑は、広域・高頻度で発生し、すでに多くの個人・企業が影響を受けており、対策の必要性や費用対効果が比較的わかりやすい。しかし、風水害などは、甚大な被害を及ぼすものの、高温に比べると局所的かつ低頻度で、多くの個人・企業にとって「将来のリスク」であり、必要性や費用対効果が分かりにくく、対策が進みにくい。温暖化シナリオやハザードマップ等を踏まえたシナリオ分析やインパクト評価などを活用して、適応策の必要性や費用対効果を定量的に示すとともに、前述の猛暑対策コストと同様に、価格転嫁できる仕組み作りが必要となる(注4)。
また、水害対策などでは、「インフラ整備」の負担も課題となる。水災・干ばつ等に関しては、個人・企業における対策だけでは十分とはいえず、治水工事といった社会・産業インフラの整備・強化なども必要となり、莫大な費用がかかる。現時点では、様々な地域が水災リスク等を抱える一方、政府・自治体の事業予算は限られ、豪雨災害等を防げていない。官民が問題意識を共有し、連携を強化して、民間資金・ノウハウ等も活用して取り組みを広げていく必要がある。もっとも、あらゆる地域の水災リスク等を回避・軽減するのは現実的ではなく、防災気象情報・避難情報の精度・認知度向上や各地域の防災力の強化などを進めるとともに、将来的な気候変動や人口減少の加速なども踏まえて、長期的な観点でのまちづくりも検討していく必要があるだろう。

■適応策は対症療法、いずれ限界も
こうした課題を解決して適応策を推進したとしても、緩和策によってCNを実現しなければ、気温の上昇が続き、いずれ適応策の限界に直面することになる。「適応策」を実施すれば「緩和策」が不要となるわけではない。緩和策の取り組みが遅れれば、その分、適応策のコストや気候変動による被害が増大することになり、その後、緩和策のコストも必要となるため、トータルの負担が大きくなると考えられる。
適応策はあくまで対症療法であり、目の前の温暖化を直視して、緩和策にもしっかりと取り組むことが求められる。


(注1)本年4月、気象庁は、最高気温が40℃以上の日の名称を「酷暑日」とすることを決定した。なお、一般財団法人日本気象協会は、2022年以降、日最高気温 40℃以上 の日を指す用語として 「酷暑日」を使用している。

(注2)大嶋秀雄「地球温暖化による労働制約の強まりと今後の課題」リサーチ・アイ No.2025-059(2025年7月16日)参照。同レポートでは2010~24年の試算を行ったが、2025年について試算しても同様の結果(約2割減少)となった。なお、就労可能時間の減少だけでなく、熱ストレス下では労働生産性も低下しやすい。昨年8月22日に世界保健機関 (WHO) ・世界気象機関 (WMO)が公表した報告書では、WBGTが1℃上昇するごとに労働生産性が2.6%低下するといった分析が示されている。加えて、熱中症リスク等のある過酷な労働環境では、離職者が増えたり、新たな人材確保が難しくなる可能性もある。また、熱帯夜等の夜間の高温による睡眠への悪影響が労働生産性の低下等につながることも指摘されている。

(注3)帝国データバンク「猛暑・酷暑に関する企業の動向アンケート 企業の5割が猛暑・酷暑で業務に支障 ~企業の87.8%が猛暑・酷暑対策を実施 「水分・塩分補給品の支給」がトップ~」(2026年7月17日)。なお、「好影響を受けた」企業が1.5%あり、避暑地で娯楽サービスを提供する企業や、暑熱対策商品を販売している企業などである。もっとも、好影響を受ける企業は限られ、全体としてはマイナス影響が大きいといえる。

(注4)ただし、多くの事業者が影響を受ける猛暑に比べて、水災リスク等には地域差があり、単純に価格転嫁をすると地域毎に価格差が生じる可能性がある。公的な保険や補助金なども組み合わせて、特定地域が不利にならない仕組み作りも必要だろう。


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