Economist Column No.2026-043
ノーベル経済学賞受賞者等によるAI社会への警告 ~大国主導ではなく多国間でAIの弊害の解決を~
2026年07月21日 石川智久
■ノーベル経済学賞受賞者等がAI社会へ警告
7月13日、ノーベル経済学賞受賞者16人を含む経済学者らが、人工知能(AI)の普及が経済に及ぼす影響に対し政策や制度づくりを急ぐことを求める声明を発表した。We Must Act Nowという短い声明文であるが、そのポイントを筆者なりにまとめると、①AIは今後10年間経済に対して多大な影響力を持つ、②産業革命よりも大きなインパクトがありうる、③生活水準を上げるというメリットもあるが、大規模な失業をもたらすリスクもある、④エコノミスト、政策関係者、技術のリーダー達は、AIが人類を手助けし、社会に利益をもたらすために必要なインセンティブ、安全対策、制度の構築についてすぐに行動を開始しなければならない、といったものである。署名している経済学者は増えており、7月16日現在で約2100名となっている。
これは大きな方向性を示したものであり、具体的なことについては明記されていない。しかしながら、元FRB議長のバーナンキ氏、スティグリッツ・コロンビア大学教授、アセモグル・MIT教授、クルーグマンNYU教授といった多くのノーベル経済学賞受賞者が名前を連ねており、今後実社会に大きなインパクトを与えるとみられる。
■今こそ国際機関の出番~大国主導ではなく多国間で課題解決を
AIが我々の経済・社会に歴史的なインパクトを与えていることは間違いない。こうしたなか、経済学の泰斗達がAI反対ではなく、AIを人類にとって有効な形で発展させる制度構築等の必要性を唱えたことはとても意義深く、世界全体がメリットを享受できるよう議論されるべきである。
一方で、大国である米国や中国は、足元で多国間の協調よりも自国の利益を優先する傾向が強くなっている。このままでは、大国に有利な形で国際標準が作られ、米国と中国それぞれを首班とするブロック化が進む恐れもある。こうしたことを避けるためにも、国際機関が世界全体の利益を考えて議論をリードすることが望ましい。とりわけ、国際的な議論では発言力が弱い米中以外の国、つまり、非G2諸国の意見を纏める場所として機能することが重要である。そして、非G2で結束することで、米中に対してバーゲニングパワーを持ち、逆にその枠組みに米中を招き入れる展開を目指すべきであろう。米国と同盟関係にあり、中国と歴史的・経済的な関係が深い日本は、こうした非G2諸国と米中の仲介役として役目を果たすことが望まれる。
■Beyond SDGsはAI社会における持続的な発展を考えるべき
国連が定めたSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)は2030年が目標年次であるが、残された時間はあまりない。本来であれば、SDGsの達成を急ぐのはもちろんのこと、次のSDGs、Beyond SDGsを考え始める時期であるが、第二次トランプ政権誕生後、専ら地政学的な話に人々の目が引き寄せられていることや、米国が国際機関に対して厳しいスタンスで臨んでいることなどから、SDGsへの関心が高まっているとは言えない状況である。
もっとも、SDGsが目指す理念の重要性はいつの時代も変わらない。であれば、SDGsに向かう行程を時代に合わせてアップデートすべきだろう。現状に引き寄せて言えば、地政学的ネガティブイベントの回避や、仮にそれが顕在化しても各国が混乱しないための協調体制を構築すること、AIがディストピアではなくユートピアをもたらすようにその利活用を工夫すること、などを考えていくべきであり、そのような観点で多国間の議論が進むことを期待したい。
日本は今年の12月18日に国連加盟70周年を迎える。それを機に国際機関の在り方とBeyond SDGsについて考えを深めるようにしたい。
<参考文献>
・Stanford Digital Economy Lab「We Must Act Now /A Statement on AI’s Transformation of the Economy」https://www.wemustactnow.ai/
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