Economist Column No.2026-041
「グローバル・アニメ・チャレンジ」が切り拓くわが国アニメ産業の海外展開─ アヌシー国際アニメーション映画祭見本市への出展を終えて ─
2026年07月16日 安井洋輔
■注目を集めた国際映画祭見本市でのピッチング
文化庁のクリエイター支援基金を活用した「グローバル・アニメ・チャレンジ(Global Anime Challenge、以下GAC)」は、わが国トップクラスのアニメ制作者が海外での制作やイベントを体験し、世界で活躍できる人材を育成する事業である(注1)。
本年6月、その集大成として11名の育成対象者が、フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭に参加し、そこに併設されている見本市「Mifa(ミファ)」でそれぞれのオリジナル企画を英語でプレゼンテーション(ピッチ)した(注2)。育成対象者は、商業アニメの第一線で活躍する監督、アニメーター、プロデューサーで構成されている。
プレゼンは午前9時開始にもかかわらず開始前から長い列ができ、最終的には最大80名の座席はすべて埋まるなど、高い関心を集めた。会場では育成対象者によるプレゼンに歓声が上がり、上映されたパイロットフィルムには感嘆の声が漏れた。続く交流セッションでは、育成対象者と参加者の間で企画内容の詳細や今後の展開などについて活発な意見交換が行われた。
参加者は、わが国アニメに関心を持つプロデューサーや配給・配信会社、海外スタジオの経営者が中心である。世界的に人気が高いわが国アニメの制作者たちと対面できるということもあって、交流は長時間にわたり、連絡先の交換も活発に行われるなど、新たなネットワークづくりの場として大きな成果をあげた。
GACはグローバルに活躍する商業アニメ制作者を育成することを目的とした稀有な事業だ(注3)。「世界を知り、己を知る。日本アニメの若い才能を後押しするプロジェクト」というキャッチフレーズを掲げ、約3年間にわたり、段階的な育成プログラムが実施される。
具体的には、1年目に英語研修と海外展開に関するワークショップ、2年目に1~3カ月間の海外スタジオでのインターンシップ、3年目に集大成としてのアヌシー国際アニメーション映画祭でのピッチなどを経験することで、国際的に活躍できるクリエイターの育成を目指している。
本事業はアニメスタジオの株式会社キネマシトラスが事業主体となり、弊社がパートナーとして運営を支援している。筆者もGACの運営コアメンバーの一人として本事業に参画している。
■新たなアニメ創出と海外展開を促すクリエイターの海外経験
GACのように、アニメ制作者が自ら海外のスタジオや国際映画祭などのイベントに積極的に参加していくことは、すでに「世界一」と評価されるわが国アニメ産業にとって意義はあるのだろうか。筆者は、以下の2点からアニメ産業の持続可能な成長にとって有益と考える。
第1に、アニメ制作のイノベーションに繋がることだ。イノベーションは、全くのゼロから新しいものを生み出すことではなく、既存の知識や技術を組み合わせることで生まれることが多い。わが国アニメも、新鮮な驚きを与え続けるためには、ストーリーや表現手法などを絶えず進化させる必要がある。国内では当たり前と考えられている発想や制作手法も、海外では異なる視点から見つめ直すことができ、新たな気づきを得られやすい。この点から海外スタジオで一定期間制作に携わることは効果的と言える。
第2に、海外市場、とりわけ欧州市場の開拓に寄与する点である。Mifaには欧州市場にフォーカスした配給・配信会社が多数参加しており、彼らの目に留まれば各国での配給・配信につながる可能性が高まる。EUでは「視聴覚メディアサービス指令」によって、オンデマンド配信サービスを提供する企業は作品ラインナップの最低3割を欧州作品とすることが義務付けられている。このため、わが国と欧州のスタジオが共同製作を行い、その作品が一定の条件を充たして「欧州産」と認定されれば、欧州市場で配信される機会が広がる。そのためにも、アニメ制作者同士の人的交流を盛んにし、お互いの信頼関係を深めることが重要となる。
以上のように、クリエイターの海外経験は、創造性の向上だけでなく、海外市場の開拓や国際共同製作の拡大に寄与する。アニメ産業が持続的に成長するためには、政府においてもこうした挑戦を後押しする施策に引き続き取り組んでいくことが重要である。
(注1)GACの詳細はウェブサイトを参照(https://global-anime-challenge.com/)。
(注2)同映画祭の参加者数は19,100名、このうち見本市への参加者は7,180名と、アニメーションに特化した映画祭では世界最大規模。
(注3)クリエイター支援基金からの支援を受けた、海外進出に意欲を持つ短編アニメ制作者の人材育成支援事業にNeW NeWがある(https://new-new.jp/about/)。
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