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Economist Column No.2026-031

銀行の預貸率上昇の2つの背景

2026年06月18日 大嶋秀雄


近年、銀行における預金残高に対する貸出残高の比率である「預貸率」が上昇している。一般的に、資金需要が旺盛で貸出が伸びれば預貸率が上昇し、資金需要が乏しく貸出が伸び悩むと預貸率が低下するとされるが、実際には、そう単純な話ではない。過去20年間、貸出は概ね増加を続けていたが、貸出よりも預金が増加して、預貸率は低下傾向にあった。しかし、足元では、貸出に比べて預金が伸び悩み、預貸率が上昇している。
本稿では、わが国における預貸率の動向について、2つの背景から整理する。

■銀行における預貸率の上昇 
まず、預貸率の動きを確認する。日本銀行(日銀)の「貸出・預金動向 速報」で公表されている「総貸出平残」・「実質預金+CD平残」から銀行・信用金庫(信金)の預貸率を計算すると(注1)、信金を含めた統計が遡れる2000年以降、預貸率は低下傾向が続いていたが、2023年頃をボトムに上昇に転じており、2026年1~3月期は、前年同期から+2.0%ポイント(60.6%→62.6%)上昇している。業態別でみても、都市銀行は+2.5%ポイント(53.3%→55.8%)、地方銀行(含む第二地方銀行)は+1.8%ポイント(73.9%→75.8%)、信用金庫は+0.8%ポイント(48.2%→49.0%)上昇するなど、業態による差はあるものの、全体として預貸率が上昇している。

■2つの背景(1) 旺盛な資金需要を受けた貸出の増加
こうした預貸率の上昇の背景としては大きく2つある。
1つは、貸出の増加である。近年は、実体経済が底堅く推移するなか、企業業績が改善していることに加えて、人手不足の深刻化を受けて省力化投資も活発化しており、企業の資金需要は旺盛である。不動産市場が活況で、不動産関連の資金需要も増加している。また、日銀の段階的な利上げで「金利のある世界」が到来し、貸出の収益性(預貸金利ざや)が改善しており、多くの金融機関が貸出を積極化している。その結果、銀行・信金の総貸出平残は、本年に入って、前年比4~5%台(前年差30兆円前後)で増加している。もっとも、従来の前年比2%前後の伸びに比べれば高いものの、過去には総貸出平残が足元より大きく伸びていたにもかかわらず預貸率が低下していた時期もあり、これだけでは足元の預貸率の上昇を説明できない。
実際、総貸出平残の増加による預貸率上昇効果(2026年1~3月期、前年同期差)を試算すると、+1.1%ポイント(注2)であり、預貸率の上昇幅(前述、+2.0%ポイント)の半分程度となる。

■2つの背景(2) 銀行部門の国債保有減少による預金減少圧力
もう1つは、銀行部門(預金取扱機関(預取機関)+日銀)による国債保有減少による預金の減少である(注3)。銀行部門が国債を保有して政府が財政支出を行うと民間部門に預金が供給されることになる。1990年代後半の金融危機以降、預取機関による国債保有が急増し、2000年の100兆円程度から、2012年には400兆円近くまで増加した。その後、日銀が大規模な量的緩和政策によって国債を大量に買い入れ、銀行部門の保有する国債は2020年には700兆円を超える水準にまで増加した。2005年にかけては、金融危機の影響もあって貸出も伸び悩んでいたが、それ以降は、貸出が増加を続けるなかでも、銀行部門の国債保有と政府の財政支出によって預金が供給され、預貸率は低下していった(注4)。
こうした動きが、近年、反転している。日銀は、金融政策の正常化の一環として、債券市場の機能改善・安定化に向けて、国債買入額を段階的に削減しており、2024年7月の月間5.7兆円程度から、現在(2026年4~6月)は同2.7兆円程度に減らし、2027年4月には同2兆円まで減らす計画である。本年6月15~16日の金融政策決定会合において、2027年4月以降は買入額を減額しないことが決定されたが、それでも、2024年7月に比べれば、(足元における銀行・信金の貸出残高の増加幅を超える)年間40兆円以上買入額が減少することになる(注5)。金融市場の正常化に伴って、これまで銀行部門の大規模な国債保有によって押し下げられていた預貸率が回復する局面に入ったといえる。
なお、個人による資産形成の活発化や、実質賃金のマイナスによって、「個人預金」の伸び悩みや減少が指摘されているが、こうした個人の資産形成や賃上げの鈍さは、基本的に、預金量全体には影響せず、預貸率にも影響しない。個人預金が減る一方で、個人以外の預金が増えるものであり、実際、個人から法人への預金シフトが生じている(注6)。

■伸び悩む預金の獲得競争
「金利のある世界」の到来によって各金融機関が貸出を積極化しているが、構造的に、貸出に比べて預金が伸び悩むため、預金確保の重要性が増している。銀行の資金調達(負債)である預金が減少した場合(注7)、代替の資金調達(社債発行、増資など)には時間を要することが多いため、資産サイド(貸出、有価証券、日銀当座預金など)の調整を迫られる。預金が減少する銀行では、貸出の積極的な推進は難しいといえる。
こうしたなか、多くの金融機関が預金獲得を狙って優遇金利等のキャンペーンを展開しているが、キャンペーンで獲得した預金は他行のキャンペーンで流出するリスクがあり、“安定的”とは言い難い。各金融機関では、短期的には、キャンペーン等も活用して必要な預金を確保しつつ、“安定的”な預金確保に向けて、中長期的な観点で、サービスの多様化や品質向上などを進めて、顧客のロイヤリティを高めていく必要があるだろう。



(注1)実質預金は、表面預金から未決済の手形・小切手を除いた額。CDは譲渡性預金。なお、都市銀行は、実質預金+CDでは、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行の5行が対象であるのに対して、総貸出平残では5行に加えて、三菱UFJ信託銀行、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、SBI新生銀行、あおぞら銀行が含まれ、対象範囲が異なるため、都市銀行の預貸率はやや高めに出る。また、本統計では三菱UFJ銀行に次ぐ預金残高のあるゆうちょ銀行(2026年3月期、貯金186兆円)が含まれていない。近年、ゆうちょ銀行は預金が減少しており(2026年3月期、前年差▲4.4兆円減少)、ゆうちょ銀行から銀行・信金に預金が流入し、銀行・信金の預貸率を押し下げていると考えられる。

(注2)貸出によって預金が創造(信用創造)されることを踏まえて、貸出残高の増加分、預金も増加するとして、2025年1~3月の総貸出平残、実質預金+CD平残に、2025年1~3月から2026年1~3月までの総貸出平残の増加分を加算して預貸率を試算し、2025年1~3月の預貸率と比較したもの。

(注3)詳細は、大嶋秀雄「銀行部門の国債保有減少で強まる預金減少圧力 ― 銀行では安定的な預金獲得と資産負債管理(ALM)が重要に ―」日本総研リサーチアイNo.2025-140(2026年2月24日)、大嶋秀雄「安定的な預金確保に向けて地銀に求められるリテール戦略の見直し」日本総研リサーチフォーカスNo.2025-009(2025年5月13日)参照。なお、個人・法人が国債を保有して政府が財政支出をした場合は、個人・法人から預金が政府に移り、それが個人・法人に供給されることになるため、預金量は増加しない。

(注4)たとえば、コロナ危機下では、実質無利子・無担保融資(いわゆるゼロゼロ融資)によって、2020~21年にかけて、貸出残高が前年比6%超の伸びを記録したが、それ以上に補助金等で預金が供給され、銀行・信金の預貸率はむしろ小幅に低下した。

(注5)足元では、国債利回りの改善を受けて、国債購入を増やす銀行も出てきているが、小幅な増加にとどまる。なお、日銀の国債保有額の減少に伴って毎月の国債償還額も減るため、買入額の減少分、国債保有額が減るものではない。

(注6)都市銀行は法人預金の割合が大きく、地方銀行は個人預金の割合が大きいため、個人から法人への預金シフトが生じた場合、地方銀行から都市銀行への預金シフトが生じる可能性はある。

(注7)貸出によって貸出先の口座に預金が創造(信用創造)されるが、その後、貸出先の支払いによって預金は他の口座に移動する。こうした資金移動の結果、個別金融機関でみると、預金が減少する金融機関が出てくる。とくに、足元では、金利水準の上昇や各金融機関の預金獲得キャンペーン等で預金者にとって預金移動のインセンティブが高まっており、銀行間の預金移動が生じやすくなっている。



※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。
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