コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Economist Column No.2026-027

長期金利の上昇が問う政策転換 ― 「供給制約の時代」の財政・金融政策 ―

2026年05月26日 西岡慎一


■「供給制約の時代」を映す金利上昇
中東情勢の緊迫化を背景に、世界的に長期金利が上昇している。エネルギー供給への懸念がインフレ圧力を強め、市場は各国の財政・金融政策の動向に神経質になっている。
日本でも、危機対応を理由に財政拡大が進む一方、金融政策では利上げが遅れ、緩和的な金融環境が長引くのではないかとの警戒感が広がっている。補正予算の編成を通じた追加経済対策が検討されているほか、金融政策の面では、インフレ対応が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」が懸念される場面もみられ、金利上昇の一因となっている。
もちろん、政府や日銀も市場の警鐘を軽視しているわけではない。政府は、赤字国債への過度な依存を避ける姿勢を強調し、補正予算の規模にも一定の配慮を示している。日銀内でも、物価上昇への警戒感が強まっており、追加利上げの必要性を指摘する声が増えている。
だが、本質的な問題はもっと深い。
今回の金利上昇は、単なる一時的ショックへの反応ではない。市場は、世界経済が「供給制約の時代」に移行しつつあることを織り込み始めている。国際秩序は新たな均衡を模索し、各国間の摩擦が強まっている。その結果、エネルギーをはじめとする供給網の混乱、国際的な労働移動の停滞、技術・資源の囲い込みといった制約が絶え間なく生じる局面に入っている。これが物価や景気の振幅を強め、タームプレミアムの上昇を通じて、長期金利を構造的に押し上げている。

■環境変化に追いついていない政策発想
問題はこうした国際的な環境変化にもかかわらず、日本の政策運営がなお「デフレ時代」の発想を引きずっている点にある。供給制約の時代には、それに適した政策転換が求められる。
まず、政府と日銀はインフレ抑制の必要性について互いの認識を共有し、それぞれの役割分担を明確にするべきである。そのうえで政府は、供給力強化へ軸足を移すべきである。経済安全保障の強化、技術・人材投資の促進、労働力の底上げなどに重点を置き、潜在成長率の引き上げを目指すことが肝要である。
同時に、平時には財政健全化を着実に進め、有事への対応余力を確保する姿勢も欠かせない。危機対応を理由とした的を絞らない支援策や価格統制策は、かえって供給制約を深刻化させ、財政規律への信認を損ないかねない。
一方、日銀は物価安定の実現に専念するべきである。現在の金融政策にとって最大の課題は、インフレ期待を一定水準にアンカーし、物価変動の振幅を抑えることである。景気や財政への過度な配慮から様子見姿勢を長引かせるとインフレ期待は不安定化する。実際、市場が織り込む期待インフレ率は2%を上回り始めている。インフレ期待がアンカーを失う前に、物価安定への強いコミットメントを示す必要がある。
さらに、日銀は、財政への過度な配慮を想起させる運営から距離を置くべきである。足元では、長期金利の上昇を受け、市場機能への配慮を求める声も強まっている。国債市場の安定確保の観点から、日銀に柔軟な対応を求める意見も少なくない。だが、長期金利の抑制へ過度に傾斜すれば、市場は「日銀が財政安定への配慮を余儀なくされている」と受け止めかねない。結果として通貨価値が毀損し、インフレ期待はアンカーを失いかねない。
短期的な市場安定と、中長期的な通貨価値への信認。その両立が難しくなっていることこそ、供給制約時代の金融政策の本質的な難しさがある。長期金利の上昇は、デフレ時代の政策思想から転換できるのかを政府・日銀に迫っている。


※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。

経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ