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Economist Column No.2026-023

常態化する顕著な高温と重要性が高まる「適応策」―長期的な観点での適応計画が重要に―

2026年05月20日 大嶋秀雄


地球温暖化が進むなか、世界各地で異常気象や災害などが頻発し、健康被害の増加や社会インフラの毀損、農作物の生育不良など様々な問題を引き起こしている。

■本年も「高温」に注意
わが国においても、近年、夏に顕著な高温が頻発している。本年4月、気象庁は、最高気温が40℃以上の日の名称を「酷暑日」とすることを決定した(注1)。酷暑日は、2017年までは観測される年の方が少なかったが、2018年以降、8年連続で観測されており、昨年は、過去最多の30地点で観測された(注2)。本年についても、5月19日に気象庁が公表した「向こう3か月の天候の見通し(6月~8月)」をみると、「地球温暖化の影響等により、全球で大気全体の温度が高い」なか、北日本から沖縄・奄美まで、全国的に平均気温は「高い見込み」となっている。すでに、5月に入って最高気温が35℃以上の猛暑日も観測されている。
高温は、広域で発生し、頻度も高いため、多くの地域で被害が発生する。全国的に熱中症被害が増加しており、わが国における熱中症救急搬送人数をみると、2010年頃まで年1~5万人だったものが、昨年は10万人を超えている。2021年から全国運用が始まった「熱中症警戒アラート」等による注意喚起や、昨年6月施行の改正労働安全衛生規則による企業に対する熱中症対策の義務化など、各所で熱中症対策が推進・強化されているが、熱中症の増加に歯止めをかけられていない。発生場所別の内訳(2017年以降)をみると、教育機関における件数はやや減少しているが、それ以外の、住居や仕事場、公衆(屋内)、公衆(屋外)、道路などでは増加傾向にある。
顕著な高温は労働制約にもつながる。たとえば、熱中症リスクを示す暑さ指数(WBGT、湿球黒球温度)および厚生労働省が示している暑さ指数や気温等に応じた就業/休憩時間の目安などを基に、東京における2023~25年の高温の就労可能時間への影響を簡易試算すると、熱ストレスを受ける労働環境では、7~8月の就労可能時間が約2割の減少する(注3)。近年、人口減少によって、多くの産業で人手不足が発生しているが、顕著な高温による労働制約の強まりは、熱ストレスを受ける業種の人手不足を深刻化させる恐れがある。
加えて、農作物への被害も広がっている。2023年の高温による米の品質劣化が2024年以降の米価格高騰(いわゆる「令和の米騒動」)の一因になるなど、様々な農作物の生産に悪影響を及ぼしている。

■渇水リスク、洪水リスクの高まり
渇水や洪水のリスクも高まっている。わが国では、年間降水量は目立って増加していないものの、長期的に、年間の降水日数は減少、短期間強雨は増加しており、雨の降り方が極端になる傾向がみられる。実際に、近年、各地で記録的な渇水がみられる一方、「記録的短期間大雨警報」が発表される猛烈な雨も多発しており、水資源の安定供給や防災機能の強化が喫緊の課題となっている。
洪水リスクに関しては、本年5月29日に、大雨警報などの防災気象情報が見直される。河川氾濫や大雨、土砂災害、高潮に関する警報等の警戒レベルや取るべき避難行動を分かりやすくするため、名称を「レベルの数字+現象名+警報等」(レベル5氾濫特別警報、レベル4大雨危険警報など)の形式で統一するとともに、警戒レベルも統一する。今回の見直しは、平成30年7月豪雨による被害等を受けたもので、地球温暖化が直接的な背景にあるわけではないが、平成30年7月豪雨については、地球温暖化の影響が指摘されおり(注4)、地球温暖化も無関係とはいえない。
 
■本年度、「気候変動適応計画」が改定
こうした、気候変動に起因する悪影響を防止・軽減する対策を「適応策」と呼ぶ。わが国においても、熱中症対策の強化や農業における高温耐性品種の開発、治水計画の見直しといった、適応分野の取り組みは進められているが、熱中症被害の増加が続くなど、気候変動に起因する悪影響を十分に防止・軽減できているとはいいがたい。さらに、先行きをみれば、地球温暖化が一段と進行して極端な高温等は一層増加する見通しとなっている。高温耐性品種の開発・普及や防災インフラの整備など、長い時間を要する対策も多く、発生した被害等に対処していくアプローチでは対応が後手に回りやすい。そのため、将来的な気候変動の進行も想定して、フォワードルッキングに対策を検討・実施していくことが重要となる。
わが国政府は、総合的かつ計画的に適応策を推進するために「気候変動適応計画」を策定しており、本年度は5年ごとの見直しの年にあたる。本年2月には、同計画の見直しに向けて「気候変動影響評価報告書」が公表され、優先的に対応すべき事象として、農業分野では米の収量・品質低下やリンゴ等果樹の栽培適地の変化、水資源分野では渇水の増加や農業用水の不足、自然災害では洪水・土砂災害の増加、健康分野では熱中症の増加などが挙げられている。こうした事象は従前から指摘されており、すでに多くの取り組みが行われているが、前述の通り、現状、十分な効果が得られているとはいいがたく、新たな気候変動適応計画では、対策の拡大・強化が求められる。
とくに、気候変動が着実に進行するなか、屋外労働の機械化・自動化や農作物の生産地の見直し、居住地の移転など、より踏み込んだ対策の必要性が高まっている。しかし、踏み込んだ対策は、必要性・費用対効果に対する疑念や、対策に伴う悪影響(生産減少等)・コスト負担などへの懸念から、企業や個人が取り組みを躊躇したり、反発が生じる可能性もある。政府は、将来的な気候変動の影響予測や必要となる適応策のロードマップを示すとともに、補助金制度の拡充や規制・ガイドラインの整備などによって、予見可能性の向上や負担の軽減などを図り、フォワードルッキングな取り組みを促していく必要がある。
また、適応策は、社会インフラの整備など、政府・自治体が主導すべき分野も多いが、企業や個人に期待される役割も大きい。企業においては、事業継続計画(BCP)や職場の熱中症対策など自社の適応策の強化に加えて、適応関連の製品・サービスの開発・販売など、ビジネスを通じた、適応策の推進が期待される。たとえば、近年、熱中症対策の製品・サービスが増加しており、企業向けでは、ファンの付いた作業服や建物・輸送機器等の遮熱塗装など、消費者向けでは、日傘やネッククーラー、健康管理のウェアラブル端末など、様々な製品・サービスが広がっている。そのほか、防災関連アプリや異常気象等に対する企業向け保険なども出てきている。一方、個人においても、自身や家族の熱中症対策、防災対策に加えて、地域コミュニティにおける取り組みの普及・強化への貢献などが期待される。

■今後数十年続く地球温暖化への備えを
地球温暖化を止めるためには温室効果ガス排出量を実質ゼロ(脱炭素)にする必要があり、多くの国が2050年脱炭素などを目指しているが、現状、脱炭素への道筋はみえていない。そのため、少なくとも今後数十年にわたって地球温暖化は進み、気象パターンや海面水位などが変化していくことが想定され、適応策はこうした長い時間軸で検討する必要がある。
気候変動対応のもう一つの柱である、脱炭素に向けた緩和策をみると、2025年2月に策定された地球温暖化対策計画やGX2040ビジョンは、2040年度に向けたものとなっている。一方、2021年に策定された現在の気候変動適応計画は、「21 世紀末までの長期的な展望を意識しつつ、今後おおむね5年間における気候変動適応に関する基本戦略及び政府が実施する気候変動適応に関する施策の基本的方向等を示す」としており、相対的に短い期間の計画となっている。前述の通り、適応策には長い時間を要する施策も多く、将来的な気候変動の進行も想定したフォワードルッキングな対応が重要であるため、適応分野においても、長期的な計画の策定が求められる。
なお、長期的な適応計画を検討するうえでは、同じく長期的に進行する他の社会課題も考慮する必要がある。とりわけわが国では、少子・高齢化との関連が重要となる。高齢者は高温や災害などに脆弱であり、今後、高齢化と地球温暖化が進むにつれ、高齢者における被害が増加する恐れがある。また、社会インフラの整備など、多くの労働力が必要となる施策もあるため、人口減少が進むなか、労働力の確保が適応策のボトルネックになる可能性もある。
ここまでみてきたとおり、気候変動が現実の問題となるなか、適応策の重要性が高まっている。熱中症の増加など、眼前の被害等への対処が急務であることは間違いないが、長期的な観点で、今後数十年続く地球温暖化への備えを強化していくことも重要となる。


(注1)一般財団法人日本気象協会は、2022年以降、日最高気温 40℃以上の日を指す用語として「酷暑日」を使用している。

(注2)気候モデルによる数値シミュレーションを用いて、極端な気象イベントにおける地球温暖化の影響を評価する「イベントアトリビューション」によれば、2025年7月下旬の記録的高温は、「地球温暖化の影響がなければ発生しなかったレベル」と評価されている。(極端気象アトリビューションセンター、2025年8月8日、https://weatherattributioncenter.jp/analyses/extreme-heat-july2025/)

(注3)大嶋秀雄「地球温暖化による労働制約の強まりと今後の課題」リサーチ・アイ No.2025-059(2025年7月16日)参照。同レポートでは2010~24年の試算を行ったが、2025年について試算しても同様の結果(約2割減少)となった。なお、就労可能時間の減少だけでなく、熱ストレス下では労働生産性も低下しやすい。昨年8月22日に世界保健機関 (WHO) ・世界気象機関 (WMO)が公表した報告書では、WBGTが1℃上昇するごとに労働生産性が2.6%低下するといった分析が示されている。加えて、熱中症リスク等のある過酷な労働環境では、離職者が増えたり、新たな人材確保が難しくなる可能性もある。また、熱帯夜等の夜間の高温による睡眠への悪影響が労働生産性の低下等につながることも指摘されている。

(注4)イベントアトリビューションによる分析によって、平成30年7月豪雨では、50年に1度の大雨の発生確率が約3.3倍になったと評価されている。(気象研究所等「地球温暖化が近年の日本の豪雨に与えた影響を評価しました」(2020年10月20日、https://www.mri-jma.go.jp/Topics/R02/021020/press_release021020.pdf))

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