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Economist Column No.2026-020

「大きな政府」化する21世紀の産業政策 ~各国で産業政策が「復権」。日本はどう対応すべきか~

2026年05月13日 石川智久


■産業政策の復権~もはや禁じ手ではない
冷戦終了後、世界各国の経済政策は基本的に自由主義をいわば中心教義としてきた。象徴的なのが、2001年12月の中国のWTO加盟である。もっとも、近年は米中2大国を中心に保護主義的な動きが強まっている。また、経済学者においては、分野によっては産業振興に政府が積極的に介入すべきという意見が強くなっている。その主張は、需要刺激に重きを置くのではなく、市場の失敗に陥りやすい環境問題や格差問題、安全保障に関する分野を中心に供給面の強化に政府が積極的な役割を担うべきとする現代供給経済学(Modern Supply-Side Economics、MSSE)をベースとするものである。こうした論調は、これまで過剰な政府介入を招きかねないとして、敬遠されがちだった産業政策の復権を後押しするものとなっている。

■世界各国で積極的に活用される産業政策
こうしたなか、先般公表された世界銀行の「Industrial Policy for Development」は、各国において産業政策が復讐心を持ったような激しい勢いで復活している(back with a vengeance)、と指摘している。そして、①先進国よりも新興国の方が産業政策を活用している、②上位中所得国における企業向け補助金の総額は現在、GDPの平均4.2%に達しており、これは過去最高となっている、③低所得国は平均して13の産業の成長を重点対象としており、これは高所得国の2倍を超える数となっている、こと等を指摘している。そのうえでこのレポートを「21世紀の産業政策に関する初の包括的ガイド(the first comprehensive guide to industrial policy for development in the 21st century)と位置付けて、15の手法を紹介している。具体的には、①工業団地、②技能支援、③市場アクセス支援、④品質改善のインフラ、⑤生産補助金、⑥特定イノベーション補助金、⑦コモディティ輸出禁止、⑧公共調達、⑨輸入関税・輸入割当、⑩輸出補助金、⑪技術移転の交換条件、⑫地域コンテンツの促進、⑬消費者需要補助金、⑭為替の減価、⑮R&D減税措置、である。そして、産業政策はすべての国に通用するマジックではないが、多くの国にとって有効なツールであるとし、使い方次第で効果を発揮できるものと肯定的な評価をしている。そして、産業政策を決定するにあたっての留意点が示されている。具体的には、政治からの中立性等に配慮した実施機関の運営の改善、低コストの公的サポート、市場インセンティブの提供、マクロ経済的な介入のリスクへの警戒、等が重要とされている。

■高市政権の戦略17分野をどう考えるべきか
このように経済学者や国際機関が、政府が関与する産業政策について一定の条件の下で前向きな評価をしているなか、日本においても他国に劣後しないよう適正な形で産業政策を進めるべきであろう。
ここで、今回の世銀のレポートの内容に照らすと、高市政権の戦略17分野にはいくつか問題がある。
1点目は、対象分野の多さである。前述の通り、低所得国は平均して13分野、先進国ではその半分以下を重点分野としているが、それと比較すると17分野は多すぎる感がある。17分野のなかからより選別していく必要があろう。
2点目は、産業政策を実施するにあたっての運営体制の整備である。今回の高市政権の政策においては、世銀レポートで指摘されている、政治的中立性、政府のコスト、市場インセンティブ、マクロ的な影響、等にどれほど配慮しているかが明確に示されていない。実施体制の整備が次の課題といえるだろう。
3点目が、規制改革である。規制改革は概して即効性は乏しいものの、財政出動を抑制することができるほか、長期的には民間企業の成長を促して大きな効果を発揮すると期待される。その利点をより活用していくべきであろう。

<参考文献>
World Bank ”Industrial Policy for Development: Approaches in the 21st Century”、 https://openknowledge.worldbank.org/entities/publication/9f8098d5-fa1f-4c1b-97b5-f04262818bb3


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