Economist Column No.2026-019
外国人政策を巡る議論の現在地 ~政策当局者や企業等との面談を通じて~
2026年05月13日 石川智久
■外国人政策は依然として多くの人々の関心事
本年1月、高市政権は外国人政策の基本方針として「外国人との秩序ある共生社会の実現」を掲げた。足元では経済界の関心がホルムズ海峡問題など地政学リスクへと移りつつあるものの、その陰で外国人政策に対する社会的関心が弱まっているわけではない。むしろ、地下水脈のように静かながらも持続的に関心が高まっていると言えよう。
筆者は、3月に外国人政策を扱った書籍を共著で上梓したことを契機に、国会議員、政策当局者、企業関係者などと意見交換を重ねる機会が増えた。また、ネット上での議論や海外在住日本人の発信にも継続的に目を通している。こうした複数のチャネルを通じて見えてきたのは、外国人政策をめぐる認識が一定程度成熟しつつある一方で、漠然とした不安や違和感も同時に広がっているという現状である。本稿では、そうした「現在地」を整理したい。
■現在地①海外の状況について多くの人々が正確に理解
まず注目されるのは、海外の状況について多くの人々が比較的正確な理解を持つようになっていることである。欧米では、外国人労働者の流入に対する反発が右派勢力の台頭を招き、結果として社会の分断を深めてきた。この構図は、もはや専門家だけの知識ではない。国会議員や政策当局者の間でも、「外国人政策が国家の分断を惹起しないために何が必要か」という問題意識は共有されつつある。
背景には、海外のメディアがリアルタイムで視聴できるようになっただけでなく、海外在住の日本人が現地の状況をSNS等で発信するようになってきたこともある。現地における生活者の視点からの情報が、国内の理解を押し上げている点は見逃せない。
■現在地②外国人排斥主義者は多くないが、漠然と不安を感じている人々が多い
メディアでは、外国人排斥的な動きが強まっているとの指摘がなされることが多い。確かに、そうした言説が目につく場面は増えている。しかし、社会全体を見渡せば、明確な排斥思想を持つ層が急増しているわけではない。一方で、海外からもたらされる情報を通じて、多くの人々が抱いているのは、治安や地域運営に対する「漠然とした不安」である。
一方、地方を中心に、外国人労働者なしには地域経済や生活インフラが維持できない事例も増えている。こうした地域では、外国人に対して比較的前向きな空気が伺える。特に、外国人が中核となって働いている企業等では外国人を温かく迎え入れている。政策当局者や地方政治家もこの現実を理解しているが、世間の目を気にして外国人受け入れ賛成を明確に表明しにくいと感じている、との声も少なくない。
■現在地③来日前教育の重要性への認識
最近の変化として、来日前の教育・研修を重視すべきとの意見が強まっている点が挙げられる。従来、日本では日本語教育や職業訓練を来日後に行うことが一般的であった。しかし近年、一部企業では海外に育成拠点を設け、一定水準の教育を施したうえで人材を受け入れる動きが広がっている。
こうした取り組みは、受け入れ側・働く側双方のミスマッチを減らすだけでなく、地域社会との摩擦を和らげる効果も期待できる。来日前教育の拡充を制度全体として後押しすべきではないか、との指摘は今後さらに強まるだろう。
■現在地④自分が損をしていると思っている日本人が増えている
この一年で特に多く聞かれるようになったのが、「日本政府は外国人や海外ばかりを優遇し、日本人が損をしているのではないか」という声である。対外援助や外国人向け施策の厚遇ぶりが、日本人向け施策と相対的に比較され、不満として表出している。
例えば、外国人材の活躍促進のために教育支援を拡充すべきだとの議論に対し、「まずは日本人教育を優先すべきだ」との意見が出る。外国人との共生を進めるうえでは、日本人側にも具体的なメリットがあることを丁寧に示さなければ、反発が強まる可能性が大きい。
■「秩序と安定」の視点を踏まえた受け入れ策が重要
日本が深刻な人手不足に直面しており、今後の少子高齢化の進展によりその問題が一層深まるとの認識は広く共有されている。その一方で、外国人受け入れに前向きな意見を表明しにくい社会的空気が存在するのも事実である。また、受け入れ賛成派の主張が外国人側の視点に偏り、日本人の不安感に十分応えていないケースも見受けられる。
日本に滞在する外国人はすでに400万人規模となり、年間30万人程度のペースで増加している。排除一辺倒でも、野放図な拡大でもない、日本の実情に即した受け入れ策を真剣に議論すべき局面に来ている。欧米の混乱を回避するためにも、労働力確保だけでなく、社会やコミュニティの「秩序と安定」を重視した設計が不可欠である。
日本語能力、日本が求めるスキル、日本社会への理解を備えた人材を、マイルドなペースで受け入れていく――。こうした方向性について、筆者が面談した多くの関係者が党派を超えて理解を示していたことは、明るい材料であろう。外国人政策は感情論に陥りやすい分野だからこそ、冷静で現実的な議論が求められている。
<参考文献>
石川智久・後藤俊平「日本が議論すべき外国人政策: 海外の経験から何を学ぶか」、金融財政事情研究会
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