Economist Column No.2026-013
中小企業も成長戦略を
2026年04月28日 藤波匠
【本論考は、共同通信社のKyodoWeekly 3月9日号の「よんななエコノミー」に寄稿したものに若干の修正を加えたものである】
昨今、人手不足が深刻な状況にある。日銀の雇用判断D.I.は、足元、80年代後半のバブル期に近い水準にあり、とりわけ中堅・中小企業において人手不足感が強いことは明らかである。
一方、賃金水準を見ると、名目賃金は上昇傾向にあるものの、物価上昇のペースに追いつかず、実質賃金は、90年代後半の金融危機直前にピークアウトして以降続く低下トレンドを脱したとは言い難い状況にある。すなわち、人手不足でありながら、そうした状況が実質賃金上昇につながっていないのである。
なぜ実質賃金は、頭打ちとなっているのだろうか。わが国の総労働者数は、近年増加傾向にある。生産年齢に該当する男性労働者が減少する一方で、女性と高齢の労働者が増え、総労働者数の増加に寄与している。男性労働者が、女性と高齢者に置き換わっていることが、賃金の下押しにつながっている面は否定しえないものの、総労働者数が減っているわけではないことは、重要なポイントだ。
すなわち、人手不足といっても、企業、産業によって、その状況はさまざまで、一部には雇用者数を増やすことに成功している例もある。産業別では、足もとの5年間で雇用者数が増えたのは、情報通信業と医療・福祉の分野である。一方、商業、金融、宿泊・飲食サービス業では、大きく雇用者数を減らした。職業別に見ると、専門的・技術的職業や事務的職業では雇用者数が増えているものの、販売や工場の現場では減少している。
雇用者数が増えている産業や職業があるということは、十分かどうかは別にして、採用に成功している企業はあるということになる。逆に、雇用者数が減っている産業・職業分野では、賃金を十分引き上げることができず、労働者をつなぎとめることができていないケースが少なくないとみられる。専ら企業人から語られる「人手不足」を言い換えると、「従来までの安い賃金で働いてくれる人がいない」ということなのではないだろうか。
中小企業が労働者の確保を図るのであれば、設備投資や人的投資を積極的に行い、生産性を向上させ、賃金の引き上げにつなげていく好循環を能動的に形成していくことが必要である。漫然と構えていても、もう人余りの時代に戻るとは考えにくく、これまでのように、補助金で国が支えてくれることも期待薄である。
昨年、中小企業庁は、「100億宣言」という取り組みをスタートした。これは、各社の社長に、一定の期間中に売上100億円を達成することを明言させ、売上増や生産性向上に資する投資、業態転換を、国が支援するというものである。これまでの中小企業政策は、護送船団的に事業継続や雇用の維持を前面に押し出したものであったが、100億宣言は、成長への意欲と行動力の高い企業を選んで支援するものである。わが国の中小企業政策における転換点となり得る施策の一つと位置付けられ、すでに3千社以上が名乗りを上げている。
地方の雇用は、多くの中小企業に支えられており、しっかりと若い世代を雇用していかなければ、地域からの人口流出は止まらない。自らの基盤である地域経済を守るためにも、中小企業は少ない人手でより多くの富を生み出すことや新たに若い人材を採用するために必要な取り組みを、戦略的に進めていくことが不可欠である。
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