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Economist Column No.2026-007

丙午(ひのえうま)による出生減は見られず

2026年04月16日 藤波匠


2026年は、干支でいうと丙午(ひのえうま)である。若い世代には耳なじみがないであろう丙午も、年配者には聞き覚えのある言葉である。前回の丙午だった1966年には、故事に倣って丙午の出産を意図的に避ける夫婦も多く、出生数が前年比▲25%の大幅な減少を記録した。この年の出産を避けるため、前後の年には出生数がやや増加するといったことも起こった。
いま思えば、子どもを出産する当事者世代ばかりか、その親の世代をも巻き込んだ丙午狂騒曲とも言うべき奇妙な社会現象であった。当時の記録をみると、出産当事者である若夫婦よりも、その親世代の方が深刻にとらえ、若夫婦に出産を避けることを促すこともあったようだ。
あれから60年が経過し、干支が一回りする2026年を迎えるにあたり、2025年後半から、少子化問題などをメインの研究フィールドとしている筆者のもとには、マスコミから何件か丙午の影響に関する問い合わせが寄せられた。「おそらくあまり影響はない」というのが当方の見解であったが、すでに少子化が進行している状況下、当時の状況を知る人が、さらに子どもを減らす要因ともなりかねない丙午に危機感を持っても不思議ではない。
だが、結論から言えば、丙午の影響はなさそうである。
3月末、2026年1月の出生数の速報値が出た。速報値では、前年同月比+0.5%でわずかながら増加となった。速報値は、日本の故事を気にすることのない外国人を含む人口の動態を示すものであるため、日本人だけを集計すれば多少異なる印象になる可能性は否定できない。ただ、外国人の割合は5%程度であることから、日本人だけを集計しても、それほど大きく減ることはないとみられる。
データとしてはまだ1月の数値が出ただけであるため断定的には言えないが、出産を取り扱う産婦人科の医師への聞き取りによっても、妊婦の大幅な減少を示唆する状況にはない模様である。今年出産の可能性のある妊婦の大半は、すでに産婦人科で検診などを受けていると考えられるが、その数が極端に減少している兆候は認められないとの回答を得ている。
聞き取りに答えてくれた産婦人科の医師によれば、そもそも若い世代で丙午という言葉自体があまり知られていないようである。また、60年前の丙午前後に生まれた世代が、現在の出産世代の親世代にあたるが、この世代が冷静に受けとめ、誤った風評を広めることはなかったとみられる。
また、丙午という言葉を知っていたとしても、現在の出産世代の多くには時期を後ずらしする余裕がない、という切実な問題もある。60年前の女性の平均第一子出産年齢は25歳代であったが、現在は31歳と5歳も上がっており、子供が欲しい夫婦にとっては、妊娠のしやすさという意味の妊孕性の観点から、安易に出産を後ろ倒しすることはできないという危機感があるのかもしれない。
さらに、コロナ禍で大きく減少した婚姻数が2023年を底にどうにか踏みとどまる状況にあり、そうしたことも出生数の微増に貢献していると考えられる。婚姻数が、足元横ばいから微増であるのは、コロナ禍で結婚の時期を逃した人たちがその後に結婚をしていることや、そもそも30歳前後の人口が、ここ数年は横ばいにあることなど、長い目で見ればあくまで一時的な要因である。あと数年もすれば、これらの婚姻数への追い風が失われることは確実であることから、少子化傾向が再び顕著となることを覚悟しなければならない。
2026年は一部の丙午に対する懸念とは裏腹に、出生数が増加に転じ、合計特殊出生率も前年対比でプラスとなる可能性があるが、こうした一時的な朗報に甘んじることなく、結婚・出産の環境を改善する持続的な取り組みがわが国として必要である。



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