Economist Column No.2026-003 日豪関係50年が問うミドルパワー連携 ― 米中対立下で日本に求められる役割 ― 2026年04月09日 井上肇■日豪関係は新たな段階へ日豪関係は、これまでの延長では捉えきれない局面に入りつつある。1976年に締結された日豪友好協力基本条約は、資源・エネルギーを軸とした経済関係を制度化したものであったが、現在では安全保障や先端技術、人的交流を含む幅広い協力へと拡大している。近年は安全保障分野での連携が急速に深化し、2022年の安全保障協力共同宣言の更新や、日豪部隊間の相互往来を可能とする協定(Reciprocal Access Agreement:RAA)の発効により、両国の関係は大きく前進した。さらに、防衛当局間の協議を束ねる枠組み(FSDC)も活用されつつあり、日豪関係はいわゆる「準同盟」とも評される段階に入りつつある。その象徴が、海上自衛隊の「もがみ」型護衛艦の改良型が、豪海軍の次期汎用フリゲートの優先プラットフォームとして選定され、導入に向けた協議が進められていることである。太平洋を挟んで戦火を交えた両国が、同一の艦艇を基盤に防衛協力を進めようとしている事実は、関係の質的変化を端的に示している。日豪関係が親友と呼びうる水準に着実に近づいていることを強く印象づける。ただし、現在の関係は依然として資源・エネルギーや安全保障といった従来分野で深く、先端分野への投資や人的交流は十分とは言えない。各分野の協力も個別に進むにとどまり、それらを横断的に結びつける明確なビジョンは十分に共有されていない。日豪基本条約50周年は、関係のあり方と将来像を描き直す契機である。重要なのは、個別分野の協力拡大にとどまらず、それらを結びつける戦略的な再構築である。資源の供給から加工、技術開発、人材育成に至るまでを一体として捉え、連携の「線」ではなく「面」を形成することが求められる。とりわけ、中東情勢の不安定化によるエネルギー供給リスクや、外国による経済的威圧の経験を踏まえれば、重要鉱物をはじめとする供給網の強靭化は不可欠である。同時に、グリーンアイアンや水素といった新たな産業領域への投資、さらには次世代を担う人材の往来と育成が、関係の持続性を左右する基盤となる。■米中対立下で問われる日本の役割こうした関係の再構築が求められる背景には、日本を取り巻く戦略環境の構造的変化がある。日米同盟は引き続き外交・安全保障の基軸であるものの、米国の関与のあり方を巡る不確実性が高まりつつある。他方で、中国とは経済的な結びつきが深い一方、安全保障上の緊張は強まっている。米中対立が長期化するなか、日本には同盟維持と対中関与の両立という現実的な対応が求められている。こうした環境下で、日本は日米同盟を外交・安全保障の基軸としつつも、それに依拠しすぎることなく、戦略の幅を広げていく必要がある。その中核となるのがミドルパワー連携である。日豪は、価値や制度を共有しつつ、米国との同盟と中国との経済関係の双方を持つという共通の構造にあり、地理や資源・産業構造の違いを背景に相互補完性も高い。こうした条件を備える豪州は、日本にとってミドルパワー連携の中核を担う最も重要なパートナーのひとつである。こうした方向性は、開放的な経済秩序を維持・強化する必要性を指摘する議論とも整合的である。シロー・アームストロング[2026]は、日本は防御的な経済安全保障に偏るのではなく、CPTPPなどを活用し、開放的な国際経済秩序を積極的に主導すべきだと指摘する。現実の国際環境では、経済と安全保障が不可分となり、供給網や技術が戦略資源として扱われる段階に入っている。開放性を維持しつつも、供給網の強靭化やリスク管理を通じて戦略的自律性を確保することが不可欠である。すなわち、日本に求められるのは、開放性と安全保障を両立させる現実主義的な経済外交である。日本が果たすべき役割は、ミドルパワー連携に参加することにとどまらない。CPTPPやRCEPといった経済連携、IPEFに代表される経済安全保障の枠組み、さらにはQUADなどのミニラテラル協力といった多層的な枠組みを結びつけ、地域秩序の形成に主体的に関与できるかが問われている。米中対立が長期化するなかで、日本が受動的に環境に適応するのか、それとも中堅国との連携を通じて秩序形成に主体的に関与するのか。その選択の中で、日豪関係は単なる二国間関係を超え、日本の戦略的意思を映し出す試金石となる。50周年は、その出発点にほかならない。参考文献・シロー・アームストロング[2026].「日本は守りより攻めの経済外交を」『日本経済新聞』2026年4月8日朝刊(経済教室).※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。