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Economist Column No.2025-073

高市政権の基盤強化と重要な局面を迎える気候変動対策 ― 「危機管理投資」を推進力に、実効的な対策の導入を ―

2026年02月09日 大嶋秀雄


■衆議院選挙で自民党大勝、政策推進力が高まる
2026年2月8日投開票の第51回衆議院議員総選挙では、自民党が単独政党で戦後最多となる316議席を確保した。戦後初めて単独政党で3分の2(310議席)を超え、参議院が異なる議決を行った場合にも衆議院で法案の再可決が可能となった。参議院では連立を組む日本維新の会を含めても過半数に届いていないものの、衆議院選挙での大勝によって高市政権は政治基盤を固め、政策の推進力が高まることになる。
今後、高市政権には、強化した政治基盤を活かして、目先の物価高対策や、成長戦略、外交・安全保障などの様々な政策課題への対応が求められるが、重要な局面を迎える政策分野の一つに、「気候変動対策」がある。気候変動対策は、温室効果ガス(GHG)排出削減によって気候変動を抑制する「緩和策」と、防災インフラといった気候変動への備えを強化して悪影響を軽減する「適応策」の大きく2つで構成されるが、わが国は、緩和策・適応策とも重要なフェーズとなっている。

■重要な局面を迎えるわが国の気候変動対策(1)本格稼働フェーズに入るGX戦略
緩和策では、2026年以降、わが国が進めるグリーントランスフォーメーション(GX)戦略が本格的に稼働することになる。
わが国政府は、2023年2月に「GX基本方針」を策定し、20兆円規模のGX投資支援や成長志向型カーボンプライシング、新たな金融手法などを柱とする政策フレームワークを示した(注1)。その後、2025年2月には、地球温暖化対策計画やエネルギー基本計画の改訂と併せて、「GX2040ビジョン(GX推進戦略 改訂)」を策定し、GX戦略を具体化した。そして、2026年以降、GX2040ビジョン等に基づき、複数の重要な枠組みが動き出す。たとえば、成長志向型カーボンプライシングでは、2026年度から、直接的なCO2排出量が10万トン以上の事業者の参加を義務化した排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働し、2028年度からは化石燃料の輸入事業者に対する化石燃料賦課金も始まる。成長志向型カーボンプライシングは、準備期間を確保したうえで、当初は低い負担から始め、段階的に負担を引き上げる方針を明確化することで、企業の予見可能性を高めて、フォワードルッキングな対応を促している。また、2026年には、脱炭素エネルギーの供給に合わせた需要の集積を図るGX産業立地政策を具体化する「GX戦略地域制度」も始動する。金融分野では、2026年度以降、時価総額が大きな上場企業に対して、サプライチェーン全体のGHG排出量等の開示を求める新たなサステナビリティ情報開示基準(SSBJ基準)が導入され、対象企業は段階的に広げられる見通しである(2026年度:時価総額3兆円以上、2027年度:同1兆円以上、2028年度:同5千億円以上)。大手企業においてサプライチェーン排出量の開示が義務化されることで、大手企業のサプライチェーン内の多くの企業に対しても、GHG排出量の計測や削減の要請が強まることが想定される。そのほか、2028年度以降,大規模な建築物を対象に、原材料から建設、使用、解体までのライフサイクル全体のGHG排出量(ライフサイクルカーボン、カーボンフットプリント(CFP)(注2))の算定を求める制度も始まる見通しである。
国際的な産業競争力の観点でも、GXの重要性は増している。足元では、カーボンニュートラル(脱炭素)に向けた取り組みに伴うコスト負担や技術的な課題、米国トランプ政権による環境政策の転換などもあって、脱炭素に向けた取り組みへの逆風が強くなっているが、脱炭素を実現しなければ、地球温暖化は深刻化する一方となるため、脱炭素技術の開発・導入は不可避といえる。そのため、各国の産業政策等とも連関して、国際的な競争が激しさを増している。わが国においても、産業競争力の維持・強化に向けて、GXの推進が重要となっている。

■重要な局面を迎えるわが国の気候変動対策(2)気候変動に起因する問題の顕在化 ― 食品価格高騰、健康被害、労働制約
適応策も重要な局面となっている。世界的にGHGの排出削減が進まないなか、地球温暖化は進行しており、世界各地で気候変動に起因する被害等が拡大している。わが国でも、近年、著しい高温が頻発しているほか、雨の降り方についても、記録的な少雨が観測される一方、「記録的短時間大雨警報」が多発するなど、極端な気象が目立つようになっている(注3)。社会・経済への悪影響も顕在化してきており、米価格の高騰(令和の米騒動)の一因となったり(注4)、夏場の高温による健康被害や労働制約の問題も広がっている(注5)。世界全体の脱炭素実現の道筋がみえないなか、少なくとも今後数十年は地球温暖化が進む見通しであり、こうした問題は深刻化すると考えられる。
とくに、わが国では、社会インフラの老朽化や、高齢化、人口減少といった他の社会問題と関連して、複合的に悪影響を及ぼす恐れがある。国土交通省によれば、今後20年で建設後50年以上経過する社会インフラの割合が加速度的に高くなるとされ、とくに、メンテナンスが遅れがちな地方圏などで、風水害等への脆弱性が高まる恐れがある。また、熱中症や風水害などの被害が高齢者に集中しているように、高齢者は気候変動に脆弱であり、今後、高齢化と地球温暖化が双方とも進むことによって、被害の拡大が想定される(注6)。加えて、高温等による労働制約が強まると、人手不足を一段と深刻化させることになる。

■「危機管理投資」を推進力に
緩和策・適応策とも重要な局面を迎えるなか、高市政権には、強化した政治基盤を活かして、実効的な気候変動対策の推進が求められる。カギとなるのが、高市政権が重視する「危機管理投資」の推進である。高市政権は、2025年11月に公表した「「強い経済」を実現する総合経済対策」(以下、総合経済対策)において、「危機管理投資」を重視した成長戦略を掲げており、具体的な分野として、経済安全保障や食料安全保障、エネルギー・資源安全保障、防災・減災・国土強靭化などが挙げられている。
GXは、化石エネルギー中心の産業・社会構造を再生可能エネルギー等のクリーンエネルギー中心に転換する取り組みで、「エネルギーの国産化」を進めるものであり、エネルギー・資源安全保障や経済安全保障に直結する。実際、総合経済対策においても、エネルギー・資源安全保障の強化に向けた施策として、GX推進は位置づけられている。もっとも、カーボンプライシングの本格導入は欧州・韓国・中国などに比べて遅れており、また、段階的に厳格化する方向性は示されているが、企業が将来の負担を回避するためにフォワードルッキングに対応するとは限らず、企業から反発が生じて負担軽減措置などが講じられる可能性もあり、実効的な仕組みにできるかは不透明である。情報開示やCFPの算定なども含め、企業への過度な負担の発生は避ける必要があるが、負担を軽減しすぎるとGXに積極的に取り組む企業に対するインセンティブも失われることになる。GXの推進は、わが国の中長期的な産業競争力やエネルギー安全保障などの観点で重要であり、高市政権では、企業や国民の理解も得ながら、実効的な仕組み作りを進める必要がある。
適応策については、食料安全保障や防災・減災・国土強靱化などに直結する。すでに、企業に対する熱中症対策の義務化や農業における高温耐性品種の開発・普及策といった取り組みが進められているものの、職場での熱中症被害や農産品の高温障害などは増加しており、対策のさらなる強化が求められる。とくに、地球温暖化は進行しており、発生した被害等に対処していくアプローチでは対応が後手に回る。高温耐性品種の開発・普及や防災インフラの整備・強化などには多くの時間を要するため、先々の気候変動を踏まえて、フォワードルッキングに対策を検討していく必要がある。なお、食料安全保障については、食料の多くを輸入に頼るわが国にとっては、国内の農業や水産業だけでなく、グローバルな観点で適応策の強化に貢献していくことも重要となるだろう。また、前述の通り、気候変動による被害は、社会インフラの老朽化や少子・高齢化など他の社会問題と関連して複合的に拡大することも想定される。GX戦略では、GX2040ビジョンの策定において、GHG排出削減策と産業政策、エネルギー政策などを連関させて推進しているが、適応策においても、社会資本整備や少子化対策、高齢化対策、地方創生などの政策と連関させて、長期的な観点で戦略策定・予算確保等を行っていくことが重要となる。
今後、高市政権では、看板政策である「危機管理投資」の推進を通じて、GX戦略や適応策の推進力を高めていくことが求められる。これまでも、環境基本計画などにおいて、環境課題と経済・社会問題の同時解決という考え方が示されているが、危機管理投資という観点で、他の政策分野とのシナジーを重視した政策推進を行うことによって、気候変動対策の実効性を高めるとともに、わが国が抱える様々な課題解決にもつなげることが期待される。

(注1)詳細は、大嶋秀雄「わが国のGX戦略の評価と今後求められる取り組み」日本総研ビューポイント No.2022-014(2023年3月2日)。
(注2)詳細は、大嶋秀雄 「カーボンフットプリントの普及に向けた課題~2030年の社会実装に向けて~」日本総研リサーチ・フォーカス No.2025-038(2025年9月26日)。
(注3)詳細は、新美陽大「今夏を振り返り来夏に「適応」する」日本総研Economist Column No.2025-057(2025年11月21日)。
(注4)詳細は、大嶋秀雄「米の安定供給には気候変動への対応が不可欠」 日本総研Economist Column No.2025-037(2025年8月6日)。
(注5)詳細は、大嶋秀雄「地球温暖化による労働制約の強まりと今後の課題」 日本総研リサーチ・アイ No.2025-059(2025年07月16日)。
(注6)詳細は、大嶋秀雄「少子・高齢化が気候変動対応に及ぼす影響をどうみるか」日本総研ビューポイント No.2024-002(2024年4月10日)
(参考)大嶋秀雄「高市政権で期待される円滑な再エネ導入に向けた政策」日本総研Economist Column No.2025-051(2025年10月23日)


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