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Economist Column No.2025-067

米国の気候変動枠組条約からの脱退と今後の課題 ― 追加影響は限定的ながら国際連携の強化は一層困難に ―

2026年01月09日 大嶋秀雄


■米国による気候変動枠組条約からの脱退
1月7日、米国のトランプ大統領は「米国の国益に反する国際組織・協定・条約からの脱退(Withdrawing the United States from International Organizations, Conventions, and Treaties that Are Contrary to the Interests of the United States)」と題した大統領覚書(以下、覚書)を発表した。対象となる組織等として、31の国連関連、35の国連以外の国際組織等が挙げられており、とくに、「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)」が含まれることが注目されている。UNFCCCは、1992年に採択、1994年に発効した、気候変動問題に関する中核的な国際枠組みであり、UNFCCCをもとで、京都議定書やパリ協定といった枠組みが構築されている。現在、国連の全加盟国193カ国を含む198カ国・機関が締約している。覚書では、UNFCCCのほか、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」や「国際再生可能エネルギー機関(IRENA)」といった気候変動問題に関する重要な国際組織からの脱退も示されている。もっとも、覚書では、「国連機関からの脱退は当該機関への参加・資金提供の停止を意味する」とされており、国連機関として記載されているUNFCCCは、資金拠出の停止等にとどまる可能性もある。今後、実際に、国連に脱退の通知を行うか、注視する必要があるだろう。
もし、UNFCCCから脱退することになれば、米国のパリ協定への復帰が困難になるとの見方が多い。気候変動対策に否定的なトランプ大統領は、第二期の就任日である昨年1月20日にパリ協定再離脱の大統領令に署名、同年1月27日に国連に離脱を通知しており、1年後の本年1月27日にパリ協定から離脱することになる。パリ協定は、バイデン前大統領が2021年に復帰したように、大統領権限で復帰が可能である一方、条約であるUNFCCCへの復帰には上院の2/3の賛成が必要となるため、復帰のハードルが高いとされる。UNFCCCに復帰できなければ、UNFCCCに基づくパリ協定への復帰もできない。ただし、一部には、1992年に行われた上院の同意に基づいて復帰できるといった指摘もみられる。

■追加的な悪影響は限定的ながら、国際連携の強化は一層困難に
米国がUNFCCCを脱退した場合、どういった影響が考えられるだろうか。
米国は、昨年、パリ協定からの再離脱を宣言し、UNFCCCへの拠出金を停止、年次会合であるCOP30にも代表団を派遣しないなど、すでに、気候変動問題に関する国際連携から距離を置いている。また、米国がパリ協定からの再離脱を宣言して以降も、今のところ、それに追随する国はなく、UNFCCCから離脱しても、なし崩し的にUNFCCCやパリ協定が瓦解する事態は考えにくい。そのため、米国がUNFCCCから脱退しても、直接的な悪影響は限られるだろう。
しかし、昨年来、パリ協定に基づく各国目標(NDC)の未提出国が続出するなど(注)、国際的な機運低下が懸念されており、米国のトランプ政権による環境政策の転換は、少なからず各国の取り組みに影響しているとみられる。また、今後、米国による海外支援の削減や、国際機関への拠出金停止などの悪影響が顕在化することも考えられる。
加えて、米国が国際連携から距離を置くことによって、今後、国際連携の強化は一層難しくなるだろう。現在の国際的な気候変動対応の状況をみれば、COP等の国際交渉における合意形成は難航し、現状の進捗ではパリ協定の目標達成は到底見通せない。NDCの未提出など、パリ協定の実効性の課題も顕在化している。世界全体の温室効果ガス排出量は依然増加しており、今後、国際連携の在り方の見直しも含め、国際連携をむしろ強化してく必要がある。そうしたなかで、世界最大の経済大国である米国のリーダーシップや貢献が期待できない影響は大きい(注2)。
地球温暖化は着実に進行しており、すでに、世界各地で様々な問題を引き起こしている。目を背けても地球温暖化は止まらず、気候変動に起因する様々な問題は一層深刻化する。当面、米国の国際連携への復帰は期待できないが、時間的な猶予はない。わが国は、欧州や新興国とも連携して、気候変動問題の解決に向けた現実的な道筋を模索し、着実に取り組みを前進させていくことが求められる。

(注1)2025年は、パリ協定に基づく各国目標(NDC)の提出年で、当初、COP30開催の9カ月前である2月10日に期限が設定されたが、ほとんどの国が間に合わず、11月のCOP30開催時点でも4割の国が未提出であった。詳細は、大嶋秀雄「COP30の成果と課題 ~求められるロードマップの具体化とパリ協定の実効性向上~」日本総研ビューポイント No.2025-026(2025年11月27日)。

(注2)パリ協定では、米国のオバマ大統領が強いリーダーシップを発揮して、採択・発効に大きく貢献した。


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