Economist Column No.2025-066
女性不在の地方創生
2025年12月25日 藤波匠
【本論考は、共同通信社のKyodoWeekly 11月10日号の「よんななエコノミー」に寄稿したものに若干の修正を加えたものである】
東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)の転入超過数が、高い水準で推移している。転入数から転出数を引いて求める転入超過数を計算すると、東京圏では、高度成長期以降マイナス、すなわち転出超過となったのは、バブル崩壊後の1994年と95年の2年間だけである。
足元の東京圏の転入超過数は、若い世代の地方定着を目指した地方創生政策が動き出した2015年頃に比べても高い水準にあり、その大半が30歳未満の若い世代となっている。このように地方創生政策によっても、全体として東京への人口流入の流れを押しとどめることはできなかった。
ただし、年齢別に詳しく見ると、コロナ禍をきっかけに、40歳以上の世代が東京圏から出ていく動きが顕在化していることが分かる。コロナウィルスの感染拡大とそれに伴う緊急事態宣言などによって自宅で過ごす時間が増え、働き方もリモートワークが普及したことなどに伴い、地方暮らしが注目されたのである。
中高年の地方志向はコロナ禍が収束した今でも根強く、どうやら定着しそうな雲行きである。コロナ禍以前には2千人足らずであった40歳以上の東京圏の転出超過数は、2021年に1万7千人に跳ね上がり、2024年になっても1万3千人と高い水準で推移している。
興味深いのが、中高年の転出超過数に占める男性の割合が87%と高い水準にあることである。コロナ禍を経て、地方創生政策の柱にも位置付けられている“地方移住”を実践しているのは中高年男性であり、女性や若者にそうした傾向はあまり見られない。実際、石破前首相がスタートさせた地方創生2.0の基本的な考え方の一つとして、「若者と女性にも選ばれる地域」が前面に押し出された背景には、これまで実現に力を入れてきた地方移住や地方リモートワーク、二地域居住などが、どちらかと言えば男性に好まれ、実践しやすいライフスタイルであったことがある。
たとえ地方暮らしというライフスタイルへの憧れに性差がないとしても、実際に地方移住を決断できる人は、男性の方が多いことは容易に想像される。例えば、働き方として、リモートワークを実践できる人は、中高年男性が多いと考えられる。女性は、窓口や売場においてお客様と相対してサービスを直接提供するような、リモートワークに馴染まない仕事に就いている人が多い。また、地方に女性の高度人材を積極的に採用してくれるような職場が少ないこともある。
加えて、女性はママ友以来のつながりなど、現住地にしっかりとしたコミュニティを築いている場合が多い一方で、男性は職場関係でのつながりが強いため、退職後の移住への向き合い方に男女で差異が生じるのは当然である。あるいは、パートナーが望む二地域居住につき合うことによって管理する家が増える負担は結局自分が負わされる、とネガティブに考えている女性が多いのかもしれない。
移住や二地域居住頼みの地方創生は、限界に来ていると言えよう。雇用や仕事の面から地方創生を図るという観点で取り組みを再考することが不可欠である。
※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。