■2025年の回顧(1) 「金利のある世界」への回帰による収益改善
2025年の地方銀行(地銀)を取り巻くビジネス環境を振り返ると、2024年以降の日本銀行(日銀)の段階的な利上げに伴って「金利のある世界」への回帰が進むなか、中核の預貸ビジネスの収益性(預貸利ざや=貸出金利回り―預金等利回り)が改善した。貸出金利の引き上げには時間を要する傾向があり(注1)、2025年3月期決算では預貸利ざやが改善していない地銀も多かったが、2025年4~9月期決算(中間決算)では多くの地銀で預貸利ざやが改善し、上場地銀のコア業務純益は前年同期比3割増加した。
銀行による資産運用(余資運用)の収益環境も改善した。日銀当座預金の超過準備に対する付利に加えて、国債利回りも上昇しており、国債保有を増やす動きもみられる。一方で、保有円債の評価損が膨らんでいる。国内基準行は、満期保有目的とすれば自己資本比率規制では時価評価は不要であるが、評価損の積み上がりはリスクを取った経営判断を難しくしたり、将来的に健全性の問題に波及する恐れがあり、金融庁も金利上昇の影響を踏まえた早期警戒制度の見直しを検討している。
■2025年の回顧(2)預貸ビジネスの競争激化、デジタル・非金融分野の競争への波及
こうしたなか、多くの銀行が貸出を積極化し、貸出の資金調達となる預金の獲得を狙ったキャンペーンも活発化するなど、預貸ビジネスの競争はむしろ激化している。競争の激化によって、銀行間の収益力などの格差も広がっており、小規模な地銀を中心に、預貸利ざやの改善の遅れや、貸出の伸び悩み、預金の減少などがみられる。
「金利のある世界」への回帰は、デジタル化や銀行のビジネスの多様化といった、構造的・長期的なビジネス環境の変化にも影響を及ぼしている。近年、デジタル技術の発展・普及によって、ネットバンクやFintech企業が急成長しているほか、ネットバンク等が提供するプラットフォーム(Banking as a Service、BaaS)を活用してブランド力のある事業会社がサービスに金融を組み込む事例も増えるなど、金融の担い手が多様化しており、地銀は、業種・地域を超えた競争に直面している。一方、人手不足への対応やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など、地域社会・企業が抱える様々な課題の解決に向けて、地銀には、非金融分野を含む幅広い支援が期待されるようになっている。2021年の銀行の業務範囲規制の見直しもあって、多くの地銀が様々な非金融ビジネスに参入しており、競争領域の多様化も進んでいる(注2)。
「金利のある世界」への回帰は、こうした構造的・長期的な変化を加速させている。たとえば、足元では、ネットバンク等だけでなく、都銀・地銀においても、デジタルサービスを活用した広域での預金獲得を狙った取り組みが広がっている。従来からオンラインでの口座開設・預金移動は可能であったが、これまでは多くの預金者にとって預金移動のインセンティブが限られた。しかし、預金獲得競争の活発化によって、預金移動のインセンティブが生まれており、デジタルサービスの普及を促す形となっている。加えて、他の金融機関との差別化に向けて、非金融分野の重要性も高まっており、個人ビジネスでは、バンキングアプリの多機能化など、法人ビジネスでは、コンサルティングなどの非金融サービスによる経営課題解決の支援(本業支援)などによって、サービスの付加価値を高める動きがみられる。
■2026年の展望(1)利上げ再開で収益改善。一方、競争環境・実体経済等への影響に留意
次に、2026年を展望したい。注目点の1つは、日銀による利上げの再開である。2025年1月の利上げ以降、米国トランプ政権の関税政策等による金融市場の混乱やわが国経済への悪影響の懸念などから、利上げが難しい時期が続いた。しかし、足元では、一時期に比べて不確実性は低下し、賃上げの継続や円安によるインフレ圧力などを背景に、日銀が12月18・19日の金融政策決定会合で利上げを実施するとの見方が強まっている。2026年も利上げが続く見通しであり、日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(12月調査)では、大半のエコノミストが2026年末の政策金利を1%以上と予測している(37名中30名)。
利上げの再開によって、地銀全体としては、預貸ビジネスの収益改善が期待される。もっとも、銀行間の収益力などの格差が広がる可能性がある。たとえば、貸出先の利払い負担が重くなるなか、貸出金利の引き上げが難しくなって、預貸利ざやが改善しない銀行が出てきたり、金利上昇で預金獲得競争が一段と激化して、資金調達コストが上昇したり、預金が減少する銀行が増える可能性もある。
今後は、金利が実体経済やマーケットに及ぼす影響にも注意が必要となる。今のところ、政策金利の水準は景気や物価を過熱も抑制もしない中立的な金利(中立金利)の水準より十分低く、緩和的な金融環境といえ、日銀も「緩和度合いの調整」と説明している。しかし、金利水準が引き上げられていけば、実体経済等への影響は徐々に強くなり、企業・家計の借入ニーズを抑制したり、債務返済能力が乏しい企業・家計などの資金繰りが悪化する可能性もある。また、景気循環の観点でも、すでに景気拡張期(2020年5月~)が5年半続き、2026年半ばには過去最長(73カ月)を更新することになり、局面変化に留意する必要がある。加えて、金利上昇のマーケットへの影響にも要警戒である。近年、都市部を中心に不動産価格が大きく上昇するなか、地銀も不動産関連融資を拡大させており、不動産市況が悪化すれば、信用リスクに波及する恐れがある(注3)。
■2026年の展望(2)試される「地域金融力」
もう1つの注目点として、「地域金融力強化プラン」がある。金融庁は、2025年の金融行政方針において、地域金融機関には、地域の持続的発展に貢献する「地域金融力」のさらなる発揮が求められるとして、「地域金融力強化プラン」を策定する方針を掲げた。12月4日に公表された金融庁金融審議会の「地域金融力の強化に関するワーキング・グループ」の報告書案(以下、報告書案)では、中堅企業への成長支援や、M&A・事業承継や経営人材等の確保の支援、事業性融資の推進、スタートアップ企業の支援、DX支援、投資専門会社を通じた資本性資金の供給、官民連携のまちづくりへの参画といった分野が示されている(注4)。報告書案を踏まえて、2025年内に「地域金融力強化プラン」が策定され、2026年には具体的な施策が動き出す。もっとも、報告書案が示した各分野は、地域課題の解決に有効なツールではあるが、「地域金融力」とは、あくまで、地域の持続的発展に貢献することであり、必ずしも、報告書案が示した各分野の取り組みを進めることではない。地銀は、地域の様々なステークホルダーとの対話を強化し、地域社会・企業の抱える課題をしっかりと見極めたうえで、地域内外の企業等とも連携して、その解決に必要な支援を行っていくことが求められる。
地銀は、業種・地域を超えた競争に直面するなか、自社の強みを活かした、地域に根差したビジネスモデルの構築が急務となっており、まさに「地域金融力」の強化が重要となる。金利上昇による収益改善や地域金融力強化プランに基づく施策なども活かして、人材・システム等への積極的な投資や新たなサービスの開発、攻めの店舗戦略、事業多角化に向けたM&Aなども行い、地域の持続的発展に貢献していくことが求められる。
(注1)大嶋秀雄「地方銀行における利ざやの改善と今後の課題 ― 貸出金利引き上げのハードルは高まる一方、預金獲得競争は活発化 ―
(注2)大嶋秀雄「地方銀行を取り巻くビジネス環境と成長戦略の重要性~多様化×激化する競争環境の生き残り戦略~
(注3)大嶋秀雄「地方銀行における不動産関連融資の拡大と内包するリスク ― 不動産市場および越境融資に係るリスク管理の強化を ―
(注4)報告書案では、地域金融力の発揮には地域における金融システムの安定が不可欠であるとして、資本参加制度・資金交付制度の延長・拡充も盛り込まれているほか、人口減少や金利上昇等を踏まえた、早期警戒制度の見直しも示されている。
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