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Economist Column No.2025-053

合計特殊出生率=1が意味すること

2025年10月28日 藤波匠


【本論考は、共同通信社のkyodoWeekly 9月29日号の「よんななエコノミー」に寄稿したものに若干の修正を加えたものである】

少子化が止まらない。厚生労働省から、2025年上半期の人口動態統計速報値が公表され、出生数は前年同期比▲3%以上の減少となった。22~24年は、年率▲5%を超える減少率で推移してきたことを踏まえれば、急速な減少に多少ブレーキがかかったとみることもできるが、依然として高い減少率を維持している。
1人の女性が生涯を通じて産む子どもの数とされる合計特殊出生率も、低下傾向にある。15年に1.45であった合計特殊出生率は、24年に史上最低の1.15となり、今年はその水準をさらに下回ることが確実な情勢で、節目となる1.00が目前となっている。
ここで、「合計特殊出生率1」が何を意味するのか、少し踏み込んで考えてみる。
合計特殊出生率が1ということは、わが国の女性が生涯に産む子どもの数が、平均して1人ということである。これは、一世代ごとに出生数が半減することを意味する。23年に生まれた子の母親の平均年齢は32歳なので、おおむね30年ごとに出生数は半減することになる。なお、長期にわたって人口を維持していくには、合計特殊出生率2.07程度が継続的に必要であるとされている。
次に、合計特殊出生率が1という状況は、複数の子を産む女性がいる一方で、およそ半数の女性が生涯にわたって子どもを1人も産まない、すなわち生涯無子となることを示唆する。生涯無子率は、45~49歳において1人も子どもを産んでいない女性の割合と定義されるが、OECDによれば、すでに日本はその水準が先進国で最も高い28.3%となっている。
合計特殊出生率を有子世帯の完結出生子ども数で割った結果を1から引き去ることで、将来の生涯無子率を簡易的に見積もることができる。完結出生子ども数とは、結婚持続期間15~19年の初婚どうしの夫婦の子ども数である。1人以上子どもがいる有子世帯の平均完結出生子ども数は、現在2を上回っている。この数値は、以前に比べれば多少低くなったものの、2010年以降は安定して2以上を維持している。子どもを1人でも産んだ経験がある女性の平均的な子どもの数は、意外と多いのである。
このことから、少子化が加速しているのは、多子世帯が減り一人っ子の世帯が増えているためではなく、子どもを持たない女性・夫婦が増えているためと考えるのが妥当である。
有子世帯の完結出生子ども数が2、合計特殊出生率が1という状況が長きにわたり続くと、生涯無子女性の割合は50%となることが予想される。かなり衝撃的な数字ではないだろうか。もちろん、合計特殊出生率が1を割り込めば、その割合はさらに高まることになる。
近年は子育て支援策が以前に比べて充実してきており、多子世帯が恩恵を感じやすい環境になりつつある。有子世帯の完結出生子ども数は、今後も劇的に下がる可能性は低いと考えられる一方、出生率はどこまで下がるかは見通しづらい状況にある。
「子どもを持たない」という個人の選択は尊重されるべきものであるが、結果的に子どもを持たなかった女性・夫婦の中には、子どもが欲しいのに経済環境や社会情勢から出産を断念した人たちが一定数いるとみられる。これからは、そうした人たちの思いを叶える少子化対策が求められているのである。



※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。
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