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Economist Column No.2025-052

変化する米中の外国人労働者政策~高度人材を巡る米中のビザ対応とわが国への示唆

2025年10月27日 石川智久


■米国がHIBビザに高額手数料
近年の欧米における外国人労働者政策は、選択的なものとなっており、IT技術者等の高度人材を優遇する方向にあった。一方で中国は外国人労働者を極力制限する動きとなっていた。もっとも、足元では、米中両国において高度技術者向けビザに関してこれまでとは違った動きがみられる。
まず米国についてみると、一時就労ビザは、H1B(高技能労働者向け)とH2(非熟練労働者向け)がある。H1Bビザは、H2よりも有効期間が長いほか、H2には原則不可となっている永住申請が可能などのメリットがあり、金融やIT等で高度人材を確保するうえで大きな役割を果たし、それが米国の競争力の源泉となってきた。
しかしながら、米国は9月、H1Bビザに10万ドルの手数料を課すことを表明するなど、外国人労働者政策を大きく転換した。米国のIT企業などは、インド等からH1Bビザで優秀な技術者を招致してきたが、今後はそれが困難化する公算が大きい。米国のシンクタンクなどでは、H1Bビザ発行が3割程度減少する可能性も指摘されている。こうした政策転換の背景には、保守的なトランプ大統領支持者等において、魅力的な仕事が外国人に取られてしまうことへの反感が大きいことが指摘できる。実際、2023年の世帯別年収をみると、IT系に多く就職するインド系・中国系が属するアジア系は112,000ドルと、白人の89,050ドルを大きく上回っており、外から来て米国で高収入を得るアジア系への反発は米国白人の地下水流に流れている。来年には中間選挙も控えるなか、排外主義的な政策は続く可能性が高い。

■中国では高度人材向けのKビザを導入
一方、中国に目を向けると、トランプ政権の米有力大学への締め付けを背景に、これまでの外国人材受け入れに消極的なスタンスを変更して、10月1日より、世界のトップ大学の理工系の若手高学歴人材を中国に呼び込むための新しいビザである「Kビザ」を導入した。こうしたなか、多くのIT技術者を米国に送り込んでいるインドのメディア等では、「留学先は米国ではなく中国に行くべき」とする論調もみられるようになっている。一方で、中国の大学生等はKビザへの反発を強めている。大学生の就職難が続き、16〜24歳の失業率(2025年9月)は17.7%と非常に高水準となっていることが背景にある。

■人材の奪い合いと自国民の満足度の両立が重要に
わが国でも国際競争力強化に向けて、先端技術分野における高度人材へのニーズは非常に大きい。2025年の骨太方針でも「昨今の国際情勢の変化も踏まえ、緊急的な措置を含めた取組により、海外研究機関からの優れた研究者を積極的に呼び込み、国際的な頭脳循環を確立」と記載されている。一方で、米中の動向をみると、国民の間で外国人材に魅力的な仕事が奪われることへの警戒感も強い。わが国も海外からの人材を招く場合には、自国民を置き去りにした外国人優遇との不満を生まないよう配慮していく必要があるだろう。



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