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Economist Column No.2025-051

高市政権で期待される円滑な再エネ導入に向けた政策

2025年10月23日 大嶋秀雄


10月21日、高市政権が誕生した。新政権で注目される政策の一つに、太陽光発電等の再生可能エネルギー(再エネ)関連の補助金制度の見直しがある。

■高市首相が指摘する太陽光発電等の問題点
これまで高市首相は、太陽光発電等に起因する様々な問題点を指摘し、再エネ関連の補助金制度の見直し(“補助金制度の大掃除”)に言及している。具体的な問題点としては、大規模な太陽光発電設備(メガソーラー)等の設置に伴う自然破壊や土砂災害リスクの高まり、景観の悪化に加えて、太陽光パネルの中国依存や、将来的な太陽光パネルの廃棄増加の問題などが挙げられている。
高市首相は、再エネ関連補助金の見直しに言及しているが、化石燃料の活用を促しているわけではない。高市首相は、化石燃料への依存に伴う海外への国富流出やエネルギー安全保障の問題などを指摘しており、原子力発電の推進や、次世代革新炉・核融合発電(フュージョンエネルギー)の早期実現などを通じて、エネルギー自給率を引き上げる方針を示している。太陽光発電に関しても、ペロブスカイト太陽電池の早期普及を目指す考えである。
しかし、原子力発電所の再稼働や建て替え(リプレース)には安全性の確保や国民の不安払拭などが不可欠であり、これまでも計画通りに再稼働は進んでおらず、今後、再稼働や建て替えがどの程度進むかは不透明である。また、核融合発電についても、発電実証を2030年代に前倒しする方針を示しているが、解決すべき課題は多く、実証前倒しの成否は未知数であり、さらに、実証後の本格導入に向けた計画や、どの程度コストがかかるかなども現時点では不明である。

■高市政権で期待される再エネ導入に起因する問題の解決
わが国政府は、温室効果ガスの排出量を2030年度までに2013年度対比▲46%、35年度までに同▲60%、40年度までに同▲73%削減する目標を掲げており、目標達成に向けて、すでに技術が確立している太陽光発電等の活用が欠かせない。
しかし、高市首相が指摘する問題点はいずれも放置できない。むしろ、円滑な再エネ導入に向けて、それらの問題点を解決していく必要がある。国際的にも、脱炭素に向けた取り組みが目標設定から具体策の実施にシフトするなか、取り組みを進めるうえでの技術・人材・コスト等の問題や、既存の技術・製品・サービスの陳腐化(座礁資産化)に伴う企業業績・雇用等への悪影響など、様々な問題が顕在化している。こうした問題を解決せずに無理に脱炭素を進めれば、国民からの反発が広がり、脱炭素に向けた取り組み自体を進められなくなる恐れがある(注)。高市首相が指摘する太陽光発電等に関する問題点も同様であり、これらを解決せずに、無理に再エネ導入を進めれば、反発が広がって、かえって再エネの導入を難しくすることになる。
今後は、再エネの適切な活用に向けて、これまでの再エネ導入で明らかになった問題点を解決していく必要がある。
まず、土砂災害や土壌汚染、景観の問題などを防ぐために、環境アセスメントや設置場所・方法等に関する規制等の強化を進めるとともに、一定規模以上の設備に関しては、地域との対話の義務化なども検討すべきであろう。なお、地域との対話では、再エネ導入のメリットとデメリットの両面を議論することが重要である。政府は、本年2月に策定したGX関連政策パッケージである「GX2040ビジョン」において、脱炭素電力の豊富な地域への産業集積を図る「GX産業立地」の方針を掲げており、太陽光発電等の再エネ発電の設置は地域経済にとってもメリットとなりうる。メガソーラー等を個別事業として設置するのではなく、地域経済振興策の一環として再エネ導入を進めるなど、地域が再エネ導入のメリットを享受できる形で進めていくことが重要である。
太陽光パネルの中国依存については、現状、国内生産の拡大はコスト等の問題から容易ではない。中国は、太陽光パネルの生産だけでなく、サプライチェーン全体で高いシェアを確保しており、安定調達に向けて、米欧やアジア諸国とも連携して、サプライチェーン全体として再編・強靭化を進めていく必要がある。もっとも、太陽光パネルの中国依存は、化石燃料の海外依存とは単純に比較できない。火力発電は、化石燃料の輸入が途絶すると発電できなくなるが、太陽光発電は、中国からの太陽光パネルの輸入が途絶したとしても、既設の太陽光パネルが急に稼働しなくなるわけではない。サプライチェーン再編・強靭化とともに、目先の輸入途絶リスクも想定して、修理・メンテナンス・リサイクル産業等の育成によってリスク軽減を図るべきであろう。また、太陽光パネルの輸入を通じて、国富の流出につながることは事実であり、中期的には、ペロブスカイト太陽電池の国内生産などを目指すことも重要である。
加えて、太陽光パネルの廃棄・リサイクルの問題にも決着をつける必要がある。政府は、太陽光パネルメーカー等の費用負担によるリサイクルの義務化に向けた法整備を検討していたが、所有者負担を前提とした他のリサイクル関連法との整合性などの問題から、本年8月に法案提出を断念した経緯がある。しかし、2030年以降、太陽光パネルの廃棄が大幅に増加する見通しであり、資源の有効活用の観点でも、リサイクルの仕組み作りが急務である。
こうした取り組みを通じて、再エネ導入に起因する問題が解決されていけば、再エネの適切な活用が進み、わが国の円滑な脱炭素社会への移行にも貢献するだろう。

(注)詳細は、大嶋秀雄「現実的な脱炭素のカギを握る 「公正な移行(Just Transition)」日本総研リサーチレポート No.2025-009(2025年10月17日)

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