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Economist Column No.2025-050

【自律協生社会シリーズ⑦】
高市新連立政権に望むー節度ある財政政策、地方分権の加速、選挙制度・統治機構改革の本格的な議論を

2025年10月21日 石川智久


■高市新政権が発足
本日、高市新政権が発足した。日本維新の会(以下、維新)が閣外協力するなど、これまでとは連立の枠組みが大きく異なることとなるが、それはこれまでの政策に縛られないということでもあり、こうした変化を大きなチャンスととらえて、日本経済の復活に向けて歩みを進めていくべきである。本稿では、現在の日本にとって必要な改革の論点を以下に述べる(注)

(注)高市新政権の経済政策に関して、総論、マクロ政策、財政政策、地方創生、環境エネルギーについては、自律協生社会シリーズとしてすでに調査部のViewpoint2025-020号~2025-024号にて発信しているので、それを別途参照していただきたい。

■まずは与野党合意事項の実施を急げ
まず、ガソリンの暫定税率廃止については、与野党で合意しているほか、足元の状況に鑑みて、引き下げていくべきである。もっとも、わが国では環境に適した税制の在り方についてまだ議論が深まっていないという問題がある。暫定税率廃止をきっかけに、環境と経済成長を両立させる新たな税制構築の議論を始めるべきである。次に、与野党が協議している給付付税額控除は、低所得者対策として多くの識者が賛同している政策であり、早急な実現が望まれる。与野党の認識が近いこうした政策については、早急に国会で審議・可決し、一日でも早く実行に移す必要がある。

■財政出動については節度ある対応を
高市氏は「責任ある積極財政」との立場であるが、ぜひとも財政再建という責任を認識し、成長分野に的を絞ったバラマキではない財政運営と、そうしたスタンスを維持することを期待する。現在は、高市総理がお手本とするアベノミクスの開始時とは真逆の経済環境にあり、膨張的な財政政策では、インフレや円安の加速等の副作用を招く恐れがある。新連立政権においては、財政健全化を重視しつつ、成長戦略と社会保障改革を両立させることを基本姿勢とする維新が加わったことでもあり、節度ある効率重視の財政運営を実施すべきである。
また、高市総理は英国初の女性首相であるサッチャー氏を目標とする政治家に挙げているが、サッチャー氏は財政再建に注力したことに留意すべきである。物価対策や資産バブル回避のためには金融政策の正常化が求められるが、政策金利を上げていくなかでは、なおさら財政再建が求められる。低位安定していた日本の長期金利が顕著に上昇するなか、財政再建に時間的余裕はない。英国の 3 人目の女性首相であるトラス氏は財政規律への配慮を欠いたことで金融市場を動揺させたが(トラス・ショック)、そのような事態は回避すべきである。加えて、財政出動を伴わない成長戦略となりうる規制改革の議論が低調なのは大きな問題であり、早急に取り組んでいくことが不可欠である。

■地方創生と地方自治の新しいあり方を
高市氏は総裁選後のあいさつで、石破総理の防災や地方創生への取り組みに対して「大きな道を開いてくれた」と、両政策について前向きな姿勢を示している。疲弊する地方への対応は喫緊の課題であり、東京一極集中の是正を主張してきた維新との連立政権において対応を加速させる必要がある。また、維新の政策である「副首都構想」についても防災等の観点から議論を急ぐ必要がある。大阪のほか、複数の副首都を置くこと等も検討すべきであり、こうした改革を通じて多極的な国家構造に転換すべきである。そのうえで、自治体間の統合や連携に資する地方自治制度の改革のほか、これまで停滞していた道州制の議論等も活発化させることで、人口減少時代に対応した地方創生と地方自治の在り方を提示していくことも重要である。
さらに、維新の発言力が増すなか、大阪・関西への注目度が高まることも予想される。万博を成功させた勢いを活用して、東京とは違う発展スタイルを生み出し、各地域のモデルケースとなるような府・市・自治体の新たな連携のかたちを提示することが期待される。

■国会議員定数削減をきっかけに選挙制度改革や統治機構の議論も
今回の組閣に当たっては、国会議員定数削減がクローズアップされた。今後、社会保障をはじめ様々な面で構造改革が求められるなか、率先して身を切る姿勢を打ち出したことは評価されよう。一方で、こうした定数是正はやり方次第で一部の政党に有利なものとなる恐れもある。民意を極力反映できるような定数の適正化が進むことを期待する。
また、識者の間では、近年の政治の混乱の背景には、平成の小選挙区比例代表並立制の導入や省庁再編が失敗だったのではないかとみる意見もある。今回の定数削減をきっかけに、選挙制度や統治機構の在り方について徹底した議論を行い、定数の問題と合わせて最適解を探るべきである。



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