Economist Column No.2025-045
合計特殊出生率の地域差をどう見るか
2025年09月24日 藤波匠
【本論考は、共同通信社のkyodoWeekly 8月25日号の「よんななエコノミー」に寄稿したものに若干の修正を加えたものである】
合計特殊出生率(一人の女性が一生の間に産む子どもの数に相当)は、地域によって大きな差異が見られる。県単位で見ると、特に近年、九州をはじめとする西日本で高く、東日本が低いという西高東低の傾向にある。また、都市部で低く、地方部で高い傾向にあることから、若い女性の地域定着や地方への移住を促す国の政策の根拠となっている。
逆に、独身女性が大都市に集中する現状を踏まえ、都市部で出生率が低いのは当たり前という意見もある。筆者も、都道府県別の出生率に注目すること自体には、あまり意味がないという立場である。
その理由は、都道府県の合計特殊出生率に、若い女性の有配偶率が強く影響しているためである。出生率の高い県の特徴として、結婚が早く、若い時期に一定数の子どもをもうける女性が多い傾向がある。そして、若い時期に結婚する女性の多寡は、女性の4年制大学への進学率に大きく左右される。すなわち、4年制大学に進学すれば、男女とも社会に出るタイミングが遅くなり、社会人としての足場を築くなかで必然的に結婚は後ろ倒しとなるのである。女性の大学進学率が高い地域ほど、結婚が遅くなる傾向にあり、出生率も下がるという、きわめて当たり前の構図が見えてくる。
もちろん、合計特殊出生率の決定には他の要因もかかわっており、また結婚している女性の出生率(有配偶出生率)にも地域性があるため一概には言い切れないものの、近年の都道府県における合計特殊出生率の変化のおおむね5割程度は、女性の大学進学率の変化で説明できる。
したがって、現在出生率が高い県でも、女性の大学進学率の上昇とともに、今後出生率は低下する可能性もある。また、地域特性としての出生率の高さは、必ずしも少子化対策の成功を意味しているとは限らない。単に、女性の大学進学率が低いゆえの結果に過ぎない可能性もあるため、出生率は女性活躍の状況と合わせて評価することが必要である。
全国平均で見れば、近年、女性の大学進学率は、男性とほぼ同水準まで高まってきており、今後も上昇する可能性が高いため、出生率には絶えず下押し圧力が掛かっていると考えるべきであろう。では、出生率を改善するためには、どのような対策が必要なのだろうか。
まずは、有配偶出生率を引き上げることである。結婚している人が子どもを産み育てやすいように、子育てや不妊治療などに対する支援を手厚くすることはもとより、若い世代の経済・雇用環境を改善し、若い夫婦が子供を持つことに前向きになれる環境を作ることが必要である。
加えて、大学進学率の如何を問わず、希望するひとが、早期に結婚に向けた行動に踏み出せる環境づくりも必要であろう。「結婚すべき」という価値観を押し付けるべきではないが、近頃は経済的な不安から、結婚に前向きになれないひとも少なくない。また、仕事や自己研鑽に忙しく、結婚に向けた行動に時間を割けないという人もいる。賃金上昇や雇用の安定化はもとより、結婚・出産を希望するひとが早い時期から婚活を始めることを躊躇しないよう、長時間労働や過剰な成果主義など、企業による「働かせ方」を見直していくことも重要と考えられる。
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