Economist Column No.2025-044
米国FRBの利下げと次期FRB議長人事が金融市場に与える影響について
2025年09月18日 石川智久
■FRBが利下げを実施。
9月17日、米国の中央銀行であるFRBが0.25%の利下げを実施した。政策金利は4.00~4.25%となる。米国の景気減速が続くなか、当面利下げ局面になると予想される。そこで、今回の利下げがマクロ経済と金融市場に与える影響について、簡単にまとめたい。
■景気は当面減速。利下げ効果の顕在化は2026年入り以降
当面の米国景気は、足元の減速傾向が年内は続くとみているが、一方で当社は、FRBが四半期に一回程度のペースで先行きも利下げを続けるとみており、その結果、2026年入り後は、利下げ効果の波及を受け、景気は持ち直しに転じる見通しである。暦年ベースでみると、実質GDP成長率は2025年が1.5%、26年が1.3%になるとみられる。
■次の焦点はFRB議長人事
トランプ大統領は、就任以降、利下げ要請に取り合わないパウエルFRB議長への厳しい批判を繰り返していた。そして、退任したクーグラー前FRB理事の後任に、トランプ政権の経済ブレーンの一人とみられるスティーブン・ミラン経済諮問委員会(CEA)委員長を指名したほか、さらに現任のクックFRB理事に対して住宅ローンで優遇的な条件の適用を受けるため申請書類で不正を行ったことを理由に、解任を通告している。このようにトランプ政権はFRBへの圧力を強めており、金融政策への信認を担保していたFRBの独立性が危機に瀕している。
そして、パウエル議長の議長としての任期は2026年5月であるなか、後任人事が話題となっている。一方でパウエル議長はFRBの理事としての任期が2028年1月までとなっている。そのため、市場関係者のあいだではパウエル氏が議長退任後も理事にとどまり、トランプ政権からの政治的圧力に対する防波堤になるつもりではないかとの意見も出てきている。
次期FRB議長について、トランプ大統領は、現時点では最終候補として、ハセット米国家経済会議(NEC)委員長、ウォラーFRB理事、ウォーシュ元FRB理事を挙げている。また、新聞報道等によると、彼ら3名を含めて11名の候補がいるといわれているほか、このリストにもう数名加わる可能性があるとされる。つまり、まだ人選には不透明感が強い状況である。FRB議長はトランプ大統領からの信認が厚いベッセント国務長官が選定の主導を握っているが、同氏はトランプ大統領の意向を汲むとみられ、議長はトランプ氏寄りの政策志向、つまりハト派的な人物となる可能性がある。
■株価堅調となる一方で債券市場は値動きが激しい展開。為替はドル安。
次に金融市場であるが、株式市場、債券市場、為替市場に分けて影響をみたい。
まず、株式市場については、マイルドな株高になると予想される。米国の政策金利水準は今回の利下げで4.00~4.25%と、依然として高水準であり、ハト派の視点では利下げ余地はかなりある。物価動向にらみであるが、タイミングにうまく合わせて利下げしていけば、株価は堅調に推移する可能性が高い。一方で、株価は最高値圏にあり割高感も指摘されている。その意味では、さらなる上昇幅は限られる可能性があり、さらに後述する債券市場の動向次第では逆に株価下落となるリスクもある。
次に、債券市場については、値動きの激しい展開が懸念される。基本的に利下げは長期金利の低下を促すことが多いが、利下げがインフレ懸念に繋がったり、FRB次期議長の人選等においてトランプ政権によるFRBへの圧力が強くなった場合、FRBの独立性の棄損が市場で嫌気される可能性も否定できない。債券市場は株式市場ほど景気刺激やハト派政策を歓迎しないことに注意する必要がある。
為替市場においては、ドル安となる可能性が大きい。最近の為替相場が日米金利差に左右されている状況下、米国の利下げ局面入りはドル安要因となる。さらに日銀は利上げを進めようとしており、これもドル安円高要因となろう。
米国の金融政策の変化は米国だけでなく世界中の金融市場全体に大きな影響を与える。トランプ政権の圧力なども見ながら、FRBの動きを注視していく必要がある。
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