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Economist Column No.2025-039

最低賃金は過去最大の引き上げへ-中小企業の生産性向上をどう進めるか-

2025年08月07日 細井友洋


厚生労働省の中央最低賃金審議会は8月4日、令和7年度の地域別最低賃金額改定の目安を取りまとめた。目安どおりに各都道府県で引き上げが行われた場合、全国加重平均の最低賃金額は1,118円、上昇額は63円といずれも過去最大となる。物価上昇が続くなかで、労働者の生活水準向上のために最低賃金引き上げは重要である一方、毎年度の大幅引き上げは中小企業経営の負担となっている。政府は2020年代の最低賃金1,500円達成を目標としており、中小企業の賃上げ原資確保に向けた官民の取り組みが一層重要となっている。

■最低賃金引き上げが中小企業経営に与える影響は年々増大
最低賃金の改定幅は、令和4年度(31円)、5年度(43円)、6年度(51円)、7年度(63円:目安)と年々上昇しており、中小企業の経営に与える影響も大きくなっている。厚生労働省によれば、従業員数が30人未満の事業所における影響率(最低賃金額を改正した後に、改正後の最低賃金額を下回ることとなる労働者の割合)は、令和3年度の16.2%から令和6年度の23.2%に上昇した。中小企業は昨年度、おおむね従業員の4人に1人の賃金を、8月から10月の発効日までの短期間で51円(率にして5.1%)引き上げる必要があった計算となる。今年度の引き上げ額の目安が63円であることを踏まえれば、影響率はさらに上昇すると想定される。中小企業の労働分配率は8割程度と、大企業(5割程度)を大きく上回ることから、賃上げ原資の確保に困難をきたす中小企業は多いと思われる。実際に、日本商工会議所が本年3月に公表した調査結果によれば、現在の最低賃金について、「大いに負担」または「多少は負担」と回答した中小企業の割合は7割超となった。

■産業・地域視点での中小企業の生産性向上が必要
政府は最低賃金を2020年代に全国平均1,500円に引き上げる目標を掲げており、来年度以降も大幅な引き上げとなる可能性が高い。「最低賃金が払えない中小企業は市場から退出すればよい」との見方が一部にみられる。確かに賃金という価格メカニズムを活用し、企業の新陳代謝を図ることは重要である。しかしながら、令和6年経済センサスによれば、従業員規模30人未満の事業所に勤める従業員数(2024年時点)は2,259万人、全従業者の約4割を占めることから、これら中小企業の経営悪化が我が国の雇用・経済に及ぼす影響は軽視できない。多くの中小企業が賃上げ原資を確保し、最低賃金の引き上げに対応できるよう、価格転嫁の促進や生産性の向上に官民一体で取り組む必要がある。
政府は本年5月、「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」において、2029年度までの5年間で中小企業の賃上げ環境整備に集中的に取り組む方針を公表した。特筆すべきは、最低賃金引き上げの影響を大きく受ける12業種について、業種ごとに生産性向上の目標を掲げ、省力化投資などを推進するプランを策定したことである。従来、中小企業の賃上げや生産性向上の取り組みは、経済産業省(中小企業庁)や厚生労働省による業種共通の取り組みが中心であった。今回は、国土交通省(運輸業・建設業)、農林水産省(農林水産業)など、それぞれの業種所管省庁が個別業種のプランの策定・実行にコミットしており、各産業の特性や実情を踏まえた支援が期待できる。
さらなる支援強化の方向性として、各地方の裁量拡大も検討すべきである。中小企業は、観光、文化、伝統、食などの地域資源を活用しながら、地域に根差した経営を行う企業が多く、地域の稼ぐ力の強化が中小企業の生産性向上に直結すると考えられる。このため、①各地域がその創意工夫のもとで、人口減少下での地域経済のあり方を描き、あわせてその担い手である中小企業の生産性向上・賃上げを促進するプランを検討する、②国が地方のプランに交付金などの財政支援や規制緩和を提供する、といったアプローチも有効であろう。



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