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Economist Column No.2025-034

日本国債の格下げ懸念とその影響

2025年07月18日 室元翔太


■日本国債の格付けを支えてきた各種バッファーは徐々に消失
日本の財政悪化と国債の格下げが懸念されている。国債格付けの評価基準は機関によって異なるが、概ね、経済・金融指標を基にした定量評価と定量評価が難しい事項の定性評価を組み合わせたものとなっている。定量評価基準は、財政面に加えて、政治・法律などの制度面、規模や成長性などの経済面、金融政策や経常収支などの金融面など、様々な角度から評価が行われている。
財政面の定量評価項目をみると、日本では政府債務残高に起因する評価はすでにほぼ最低である一方、長きにわたる低金利環境の恩恵を得て、利払い負担に起因する評価は良好である。もっとも、低金利の恩恵は薄れつつあるほか、足元、盛り上がりをみせる減税の議論は歳入を減少させ、財政面の評価を一段と悪化させる可能性がある。
日本国債の格付けを支えてきた他の評価項目も悪化している。日本では、同レベルの所得水準の国と比べて経済成長率が低く、米国の関税政策に起因した景気下振れ懸念がくすぶる中で、経済面の評価が悪化しやすくなっている。また、日本円の準備通貨としての地位が低下していることなども、金融評価を悪化させる要因になり得る。IMFによると、2025年1-3月期の世界の外貨準備に占める日本円の比率は5.15%と、前期(5.83%)から急落している。これらは一例に過ぎないが、こうした状況を踏まえると、国債格下げへの距離が徐々に近づいていると思われる。

■格下げに伴い国債利回りや企業の外貨調達コストが上昇する恐れ
国債格付けが引き下げ方向に転じる場合、まず、国債の利回りが急騰するリスクがある。格付自体は国債のデフォルト懸念を示す1つの情報に過ぎないものの、格付機関のネガティブアクションは、国債のデフォルトリスクが高まる兆候と受け止められ、国債への売り圧力が強まる懸念がある。実際に、欧州債務危機時には格下げ幅と足並みをそろえるかたちで南欧諸国の国債利回りが上昇する現象がみられ、2011~12年頃には格付▲1ノッチ悪化と国債利回り(ドイツ国債利回りとの差)+1%ポイント程度の上昇がリンクしていた。また、2022年に生じた英国のトラス・ショック時、同国債の格下げには至らなかった(アウトルックはネガティブに引下げ)にもかかわらず、英国債利回り(短期金利との差)が+1%ポイント程度上昇した。こうした状況が日本にも当てはまる場合、仮に▲1ノッチの格下げが生じると、日本の国債利回りは3%近く上昇してもおかしくない。
加えて、日本企業の外貨調達コストが上昇する可能性もある。企業の信用格付は、原則的に国債の格付けに連動するように評価されているため、国債の格下げで一部の日本企業が格下げの憂き目にあう懸念があり、海外金融機関からの外貨調達時には追加の利回りを要求されることになる。また、日本の金融機関がインターバンク市場などで外貨を調達する際にも利回りが上昇するため、貸出金利もこれに連動して上昇し、結果として日本企業の外貨調達コストが全般的に上昇する懸念がある。

■最悪シナリオも念頭に置いた財政運営を
国債利回りや外貨調達コストの上昇は、格付評価項目の悪化を通じて、さらなる格下げを引き起こす恐れがある。例えば、ポルトガルでは2010年後半から11年の間に▲7ノッチの格下げに直面した。もし、日本国債が▲2~3ノッチ格下げされた場合、日本国債、企業・金融機関の信用格付けが投資適格級の地位を失い、市場での外貨調達自体が困難になるリスクもある。参院選に向けて、各党は減税や現金給付などの財政緩和策を打ち出してきたが、今後の財政運営においては、景気下支えと国債格下げリスクのバランスを意識していくことが求められよう。



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