Economist Column No.2025-028
新たなトランプ関税が日本経済に与える影響
2025年07月09日 石川智久
■一時停止期間終了
トランプ政権は足元で各国に新たな関税率を通知し始めている。そして日本に対しては25%と、4月に提示されたものがほぼ据え置きとなっている。現在示されている関税率が実施された場合、世界経済の成長率は好不況の分かれ目といわれる3%を下回り、軽い景気後退局面入りする可能性が高まるが、深刻な景気後退は回避できると考えられる。一方で、日本経済は今年度マイナス成長となる可能性が高まった。一方で、足元での円安がある程度緩衝材になるほか、自動車以外の製品は企業向けの高付加価値品が多いため、価格が高くても一定の需要が望めることを考えると、過度な悲観は不要ともいえる。
■ひとまずは粘り強い交渉を
一方で、関税率が適用されるのは8月以降であり、まだ交渉の余地は残っている。ひとまずは粘り強く交渉していくことが重要である。一方で、高関税が適用された場合を想定して、悪影響を受ける企業への資金繰り対策等も進めていく必要がある。さらに、経済対策などで景気を落ち込ませない対応も求められる。
■貿易構造の多角化と構造改革を急げ
米国の保護主義的な動きは長期化するとみられるなか、日本としても米国の動向に左右されない経済構造への転換が重要である。貿易相手国の多角化等を進めるほか、CPTPP加盟国の増加なども求められよう。そして米国への貿易黒字が減少するみられるなか、日本が抱えているデジタル赤字の削減も進めていく必要がある。国産ITの強化に向けた国家戦略を強化すべきである。
さらに、激変する国際環境のなかでは、企業は国際競争力を高めていく必要がある。そのためには規模拡大が重要であり、合併等を加速させるような税制や政策等を進めるべきである。さらに、新たな輸出産業となった農業等においても、農地集約等を進めて、様々な国に日本の食材を提供していくことも重要である。米国から日本の農産物市場開放を求められる可能性が高まるなか、農業においても保護主義ではなく競争力強化の観点から政策を進めるべきである。例えば、牛肉は1991年から輸入が自由化されたが、畜産業は経営努力を続けて、いまや和牛は世界でも人気となり、輸出も好調である。農業産出額をみても、畜産業は3.7兆円であり、保護されているコメの1.5兆円よりも多くなっている。農業においてこのような事例を増やすことも重要である。
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