Business & Economic Review 2007年06月号
【STUDIES】
転換期を迎えるアメリカのカード・ビジネス
2007年05月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里
要約
- Visa、MasterCardはこれまで非営利の協会組織としてカード事業を展開し、アメリカのペイメント・カードの普及に貢献してきた。ところが、Visa、MasterCardのカード事業はここにきて各方面で摩擦や反発を引き起こすなど、ほころびが目立つようになっている。
- 具体的にはまず、Visa、MasterCardを相手取った訴訟が相次いでいる。提訴しているのは司法省、競合ブランド組織、さらには顧客であるはずの加盟店と多岐にわたる。また、加盟店手数料に対する不満を高める加盟店が、カードに代わる安価な決済ツールを求めるなど、手数料負担の軽減を模索している。さらに、カード会員からも、Visa、MasterCardがリスク管理の向上や収入の強化を目的に導入した諸施策に対して反発が強まっている。
- こうしたなか、Visa、MasterCard内部の求心力が低下している。Visa、MasterCardの中枢メンバーが相次いで競合ブランドのカードの発行に踏み切っていることや、Visa の産みの親であるBank of Americaが独自のカード・ネットワークを設立する構想を打ち出したことがそれを象徴している。
- Visa、MasterCardのカード事業にこのようなほころびが生じた根本的な要因としては、カードが日常生活のなかで普及・定着するなかで、カードの揺籃期に形成された事業の枠組みや収益モデルの妥当性が次第に低下していったことが指摘できる。消費者の間でカードの支払いが日常化した現状では、加盟店はカードを取り扱うメリットを実感しづらくなり、取り扱いに伴うコスト負担が目立つようになっているのが端的な例である。
- 今後、Visa、MasterCardのカード事業の枠組みや収益モデルは徐々に現状に即したものへと変貌していかざるを得ないであろう。その動きはすでに始まっており、MasterCardに続きVisaも公開企業に転換する計画である。公開企業となったVisa、MasterCardは、将来的には銀行のみならず一般事業会社も顧客として取り込むとともに、収益機会の拡大に向けて積極的に動くことが考えられる。
一方、イシュアーは収益の下方圧力の強まりを受けて、Visa、MasterCardへの依存を高める中小と、Visa、MasterCardとは一線を画し独自の付加価値を追求していく大手に一段と二極化する公算が大きい。 - 以上のアメリカの経験が日本のカード業界に示唆するのは、カード・ネットワークが社会インフラになるまでに普及すると、普及を目指して構築された従来の枠組みの妥当性が低下し、新たな問題を引き起こす可能性があるという点である。それを回避するために、常に顧客の視線に立って事業を展開するとともに、自社ブランドとVisa、MasterCardブランドとの関係をどうするか、などの課題を今から検討しておくべきであろう。