アジア・マンスリー 2026年8月号
GBA・ASEAN連携は発展するか
2026年07月29日 呉子婧
粤港澳大湾区(GBA)とASEANの経済連携が強まりつつある。もっとも、双方の企業競争力やASEAN内の制度・発展段階の格差などを踏まえると、均衡の取れた連携として発展するかは不透明である。
■双方向の経済連携を目指すGBAとASEAN
香港・マカオ・中国広東省の9都市からなる粤港澳大湾区(GBA)とASEANの間で、資本、技術、人材の交流を拡大する動きが強まりつつある。
中国側では、景気の低迷や企業間の過度な価格競争、いわゆる「内巻」が深刻化するなか、ASEANをはじめとする海外市場に新たな成長機会を求める動きが広がっており、中国本土・香港からASEANへの直接投資も増加している。
一方、ASEAN側も、中国企業からの投資受け入れにとどまらず、農産物や食品、消費財、観光サービスなどのGBA市場への輸出や、現地での資金・事業パートナーの獲得を通じて、対中ビジネスの拡大を目指している。また、GBAの資金、製造技術、研究開発力を取り込むことで、自国産業の高度化を図る狙いもある。とりわけ、製造業やデジタル分野で技術移転や生産性向上が進めば、中長期的な経済成長力の押し上げも期待される。
こうした双方向の経済連携を仲介する役割を担おうとしているのが香港であり、香港では、中国本土企業に加え、シンガポールやマレーシアなどASEAN企業の拠点も増加している。香港は、国際金融市場やオフショア人民元取引、コモンローに基づく法制度に加え、仲裁、会計、税務、物流などの機能が充実しているため、中国企業に対してASEAN進出に必要な資金調達や専門サービスを提供できるほか、ASEAN企業にとってもGBA企業との事業連携や中国本土市場への参入の窓口となり得る。
■二つの「格差」が双方向の連携を阻む要因に
もっとも、連携のメリットが双方にあるとしても、資本や、技術、商品の流れがwin-winのかたちで発展していくとは限らない。その背景にはGBA企業・ASEAN企業間の格差と、ASEAN内の格差という二つの構造的な障壁がある。
第1の障壁は、GBA企業とASEAN企業における競争力の格差である。現時点では、資金力、技術力、サプライチェーン、海外展開の経験などの面でGBA企業が優位にあり、当面はGBAからASEANへの投資や輸出が先行しやすい。実際、国内の激しい価格・開発競争を通じて競争力を高めてきた中国企業は、スピーディな製品開発力と高いコスト競争力を武器に、ASEAN市場への進出を加速させている。ASEANの中国からの輸入額は近年大幅に増加し、対中輸出額との差も拡大している。安価かつ高品質な製品の流入はASEANの消費者に恩恵をもたらす一方、地場企業の収益や設備投資、雇用を圧迫する公算が大きい。
これに対し、ASEAN企業がGBA市場、さらには中国本土市場へ進出する際の障壁は高い。中国の消費市場では、主要な電子商取引プラットフォームやSNS、ライブコマースを活用した販売手法が目まぐるしく変化し、製品のライフサイクルも短い。現地の嗜好をいち早く把握し、商品開発や生産、販売戦略に反映する術を持たないASEAN企業にとって、こうした厳しい環境に対応することは難しい。
第2の障壁は、ASEAN域内の発展格差である。ASEANは一つの経済圏としてGBAとの連携を進めようとしているものの、加盟国間では、所得水準や産業構造の面で大きな差がある。GBAからASEANへの高付加価値分野における投資は、所得水準が高く制度やインフラが整った国や、製造業の集積が進む国など、一部に集中する可能性が高い。このためGBAとの連携強化が、ASEAN域内の産業格差をかえって拡大・固定化させるリスクもある。
こうした発展段階の違いは、GBA企業とのビジネス交渉におけるASEAN企業の不利につながる可能性もある。ASEANは制度の調和や相互承認を進めているものの、その進展度合いは国や分野によってばらつきがあり、決済やデータ流通、認証などを域内で一体的に運用するには、なお多くの課題が残されている。こうしたなかで、各国がGBAや中国本土企業の投資を個別に呼び込もうとすれば、税制優遇、補助金、土地供与などの条件競争が生じやすい。その結果、GBA側に有利な条件が提示されやすくなり、ASEAN側は全体として立場が弱まるおそれがある。
■政策主導型の連携に伴うリスク
GBA・ASEAN連携の先行きを考えるうえでは、その政策主導的な性格にも注意が必要である。GBAは、中国政府が国家戦略として推進する地域開発構想であり、ASEANとの連携の方向性や重点分野も、中国の産業政策や対外経済政策に大きく左右される。仮に中国政府が経済安全保障、データ管理、先端技術、資本移動などに関する規制を強化すれば、香港を介したASEAN企業との共同事業も、その影響を免れないであろう。
このことは、ASEANの外交戦略にも影響を及ぼす。ASEAN各国はこれまで、米国と中国両方と友好的な外交関係を維持するバランス戦略をとってきた。しかし、ASEANがGBAとの連携を深めるほど、経済的なメリットと引き換えに中国からの政治的な同調圧力を受けやすくなり、結果として米国との関係が悪化するリスクも高まる。
現状、ASEAN側の関心は経済的利益や産業高度化に向かっており、上記のようなリスクへの備えは、必ずしも十分とは言えない。GBAとASEANの連携が一段とは発展し、両地域に持続的なメリットをもたらすためには、こうした障壁やリスクを一つ一つクリアしていく必要がある。
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