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アジア・マンスリー 2026年8月号

米関税政策の焦点は“Made by China”へ移行

2026年07月29日 三浦有史


米国は対中輸入が大幅に減少する一方、対ベトナム輸入は大幅に増加している。ベトナムは、中国から原材料や部品を輸入しており、米関税政策の焦点は“Made in China”から“Made by China”へ移行しよう。

■米輸入先は中国から中国以外のアジアへ
米国の輸入構造は、2025年に大きく変化した。輸入先がどのように変化したかを明らかにするために、米輸入統計を地域別に整理したのが右上図である。相互関税が高水準に置かれた中国の輸出をどの地域が代替したかを明らかにするため、アジアを中国と中国以外の二つに分けた。

米国の2025年の輸入は前年比+4.6%と順調に拡大した。国・地域別の寄与度をみると、対中輸入の寄与度が大幅に低下し、マイナス4.0%ポイントとなる一方で、欧州と中国以外のアジアの寄与度が上昇し、それぞれ2.1%ポイントと5.8%ポイントとなったことがわかる。

このうち欧州については、アイルランドとスイスの2カ国で欧州の寄与度の9割を説明できる。前者は医薬品およびその原料、後者は貴金属の輸入増加を受けたもので、いずれも相互関税の公表を受けた駆け込み輸入がその原因であることから、対中輸入の減少との関係は乏しい。

一方、中国と中国を除くアジアについては、両者の寄与度がおおむね相殺するかたちになっている。これは中国の対米輸出を中国以外のアジアが代替した結果であり、2025年に大がかりなサプライチェーン再編がなされたことを示唆する。

■ベトナムの輸出を裏で支える中国
中国以外のアジアとは、具体的にどのような国なのか。米国の対アジア輸入は前年比+4.4%となった。アジアを中国、ASEAN、台湾、韓国、インド、日本、その他に分け、それぞれの寄与度を求めると、ASEANと台湾がそれぞれ7.7%ポイント、6.3%ポイントと、中国のマイナス9.6%ポイントを帳消しにし、米国の対アジア輸入を押し上げる役割を果たしたことがわかる。

このうち、対台湾輸入の増加はAI投資ブームに伴うサーバー輸入の増加を受けたものである。サーバー輸入は、2025年に前年比+164.8%の1,636億ドルと驚異的な伸びを示し、米貿易品目分類HTS6桁で最大の輸入品目に浮上した。ただし、米国のサーバー輸入に占める中国の割合は2020年時点ですでに2.9%に低下し、その後も低下し続けていることから、台湾が中国の輸出を代替したとはいえない。

中国の対米輸出を代替することで輸出を増やしたのがASEANである。ASEANの寄与度は国別の濃淡が大きく、ベトナムの寄与度が4.2%ポイント、タイの寄与度が2.1%ポイントと、この2カ国でASEANの寄与度の8割を説明できる。ベトナムは米国の対ASEAN輸入の42.7%を占め、米国にとってASEANのなかで最大の輸入先となっている。

ベトナムは、様々な品目で中国に替わる最大の輸入先となっている。例えば、2025年の米国のノートパソコン輸入に占めるベトナムの割合は61.3%と、前年の27.2%から大幅に上昇する一方、中国の割合は66.1%から17.8%に低下した。この背景には、台湾の電子機器受託製造サービス(EMS)が中国の生産能力を縮小する一方、直接投資を通じて、ベトナムの生産能力を増強したことがある。

しかし、短期間で一大輸出拠点となった理由として、多くの部品が中国から輸入されている点に留意しなければならない。ベトナムのコンピュータ・電気製品・同部品の輸入は、輸出と歩調を合わせるかたちで増加しており、輸入に占める中国の割合は2025年に35.1%と、上昇を続けている。

■付加価値ベースの「包括的な閾値」の導入
米国の輸入構造は2026年に入っても変わっていない。2026年1~4月の対中輸入は前年同期比▲37.0%の807億ドルとなる一方、ASEANからの輸入は同+33.1%の1,786億ドルと、対中輸入の2.2倍の規模となった。この結果、2026年1~4月の対中貿易赤字は439億ドルと、前年同期の半分になったのに対し、対ASEAN貿易赤字は1,269億ドルと、前年同期から338億ドル増え、対中貿易赤字の2.9倍の規模となった。

トランプ政権の関税政策は、対中貿易赤字を減らすという点では成果を収めたが、貿易赤字全体を減らすには至っておらず、脱「中国依存」も国別輸入統計でみるほどには進んでいないといえる。このため、米国政権内で “中国が関税を回避する目的で第三国を経由する「迂回輸出」を増やしている”という批判が再燃する可能性が高い。
 
トランプ政権は、原産地証明書の偽装などを摘発する水際対策を強化しているものの、ウェンディ・カトラー元米通商代表部(USTR)代表補は、2026年4月、そうした水際対策では十分な効果が得られないため、米国の関税政策は輸入品の付加価値に占める中国の割合に「包括的な閾値」(blanket threshold)を設け、それを超えた輸入品に追加関税を課すという方向に進む、という見方を示した。

これは、トランプ政権の関税政策の焦点が対中貿易赤字を減らす、“Made in China”への対応から、サプライチェーン上にある中国企業をいかに排除するかという、“Made by China”への対応に移ることを示唆している。閾値が低く設定された場合、中国はもちろん、中国の対米輸出を代替してきた国の経済を下押しし、ベトナムを中国に替わる対米輸出の拠点としてきた企業はサプライチェーンの再々編を迫られることになろう。そのため、「迂回輸出」を巡る議論がどのような方向に進むのかについて注視していく必要がある。


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