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アジア・マンスリー 2026年6月号

拡大する中国の研究開発投資

2026年05月28日 関辰一


持続的に拡大する中国の研究開発投資は、長引く経済不振という点で類似性が指摘されるバブル崩壊後の日本には見られなかった動きであり、中国経済に対する過度に悲観な見方に再考を迫るものである。

■活発な研究開発活動
中国の研究開発投資が持続的に拡大している。経済協力開発機構(OECD)は研究開発費の定義を、企業や公的機関、大学などの機関で研究開発業務を行う際に使用した人件費、原材料費、有形固定資産および無形固定資産の購入費、リース料およびその他の経費の合計、としている。OECD統計によると、中国の研究開発費の総額は、2014年の1兆3,016億元から2024年に3兆6,327億元(約84兆円、1元=23.2円で計算)へと大きく増加している。全体に占める企業部門の割合は2014年の69.7%から2024年に71.4%へと小幅に上昇している。

日本では1990年ごろに不動産バブルが崩壊した後、企業は研究開発投資や設備投資に消極的となった一方、中国では2020年ごろに不動産バブルが崩壊したにもかかわらず、企業が研究開発投資を拡大し続けている、という点が注目される。

この背景として、中国の起業家のアニマルスピリッツ、強い技術志向、激しい競争による圧力といったミクロの要因に加えて、政府の中長期的な支援姿勢や、減速しながらも経済成長が続いていること、従来の研究開発費の水準が国際的に低かったことなど、マクロの要因も大きい。

まず、中国政府の中長期的な支援姿勢が企業に安心感を与えることで研究開発投資を後押ししていると考えられる。2012年の習近平政権発足後、中国政府は「国家イノベーション駆動型発展戦略」を国家の中核政策とした。2050年までに世界トップクラスの科学技術・イノベーション強国になることを掲げ、2030年までに産学官における研究開発費の増加を促進するとしている。こうした中長期計画の下、製造業に関しては「中国製造2025」、人工知能(AI)に関しては「次世代人工知能発展計画」といった中長期計画を発表している。さらには、「科学技術イノベーション5カ年計画」やロボットなどに関する5カ年計画を発表している。足元では、米中対立の激化など国際環境の変化を背景に、「自立自強」による科学技術強国の建設を最重要目標とし、技術のボトルネック打破とコア技術の国産化を政策の主軸としている。

バブル崩壊後の日本との対比では、近年の中国は減速しながらも相対的に高めの経済成長が続いていることが相違点である。日本の実質GDP成長率は1990年代以降おおむね+1%から+2%の水準で推移したものの、2025年時点で中国の実質GDP成長率は+5%を維持している。経済規模の拡大に伴い、企業のキャッシュフロー、すなわち研究開発投資の原資が増えているといえる。

このほか、1990年ごろの日本の研究開発費の対GDP比率はすでに米国やドイツより高かった一方で、2024年時点の中国の同比率(2.7%)は依然として日本(3.6%) や米国(3.4%) 、ドイツ(3.1%)を下回っている。すなわち、国際比較でみると、不動産バブルが崩壊した時点で、日本は研究開発費を増やす余地は小さかった一方で、中国にはその余地が十分にあるといえる。

■ハイテク分野の投資拡大が顕著
上海、深圳、北京の三つの証券取引所に上場しているすべての製造業企業の研究開発投資の総額は、2014年の1,821億元から2024年に1兆2,645億元へ増加している。有価証券報告書(年度報告)から得られるこのデータは、企業内部における研究開発の経費だけでなく、外部に委託した研究開発費の経費を含む。他方、先述のOECDの研究開発費のデータは、重複計上を回避し、全国の研究開発活動の状況を把握するために、企業・公的機関・大学の内部における研究開発の経費のみを対象とする。データの定義に違いがあるため、それぞれの金額や増加率をそのまま比較することはできないものの、いずれも持続的に拡大している、という方向性は一致している。

中国政府が2015年に発表した「中国製造2025」では、重点10分野を特定し大胆に投資を集中させる国家戦略を打ち出したが、独自に集計した重点10分野の研究開発投資の合計額は、10年間で13.1倍という驚異的な伸びとなっている。この急増により、製造業上場企業の研究開発投資の総額に占める重点分野の割合は13.1%から24.7%へと上昇している。

とりわけ、蓄電池・太陽電池は、この10年で研究開発投資を約26倍、売上高を約10倍へと急増させ、中国の製造業の高度化と経済のエネルギー転換を強力にけん引している。代表的な蓄電池であるリチウムイオン電池は、電気自動車(EV)やエネルギー貯蔵システム(ESS)に用いられ、国際社会のコンセンサスとなっているグリーントランスフォーメーション(GX)を支える不可欠の製品になっていると同時に、電気・電子機器などにも広く用いられている。

加えて、新エネルギー自動車の研究開発投資も10年間で約16倍、売上高は約14倍と急増している。EV、プラグイン・ハイブリッド自動車、燃料電池車を含む中国の新エネルギー自動車市場は、2021年以降、航続距離や充電に必要な時間の改善や価格低下、充電スタンドの普及、様々な政府支援策により急拡大している。そうしたなか、非国有完成車メーカーを中心に積極的な研究開発投資を通じて、着実に技術力を高めている。このほか、バイオ医薬品・医療機器、半導体、鉄道車両においても、研究開発投資の拡大が顕著である。中国企業は研究開発投資を行うことで、新たな技術、ブランド、商品、生産・販売プロセスを獲得し、それが生産性向上につながっていると考えられる。

以上のように、中国では活発な研究開発活動が行われている。中国の経済成長の行方や、中国企業との競争や協調のあり方を検討する際には、こうした事実をよく踏まえることが重要である。


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