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アジア・マンスリー 2026年6月号

イラン情勢緊迫化を機に日ASEAN連携再強化へ

2026年05月28日 野木森稔


日本は「パワー・アジア」を通じてASEANに対する支援を開始した。原油など資源調達だけでなく、脱炭素産業や重要鉱物供給網への支援が推進され、停滞気味だった日ASEAN連携が再強化されている。

■「パワー・アジア」によるASEAN各国への金融支援
イラン情勢の緊迫化が続くなか、資源調達への不安の高まりによってASEAN経済の先行き懸念が高まっている。タイ政府は3月10日、政府機関におけるエネルギー使用削減を決定し、公的機関での節電や在宅勤務の推奨を開始した。3月18日には、ベトナム政府が日本の高市首相に石油備蓄の提供を求めた。フィリピンでは3月24日に、エネルギー安全保障確保のため国家エネルギー非常事態が宣言された。資源輸入国であるこれら3カ国は、中東産の原油や天然ガスへの依存度が高いことも影響し、4月にかけてインフレ率の急速な上昇に直面している。

これらASEANの国々に対し、日本が支援の強化を開始した。4月15日のエネルギー強靱化に関するAZEC+オンライン首脳会合では、アジア域内のサプライチェーン強靭化を目的とした新たな協力枠組みである「パワー・アジア」の立ち上げが発表された。高市首相は、エネルギー安全保障、経済成長、脱炭素化の同時実現を目指すAZECに、この約100億ドル規模の支援を基にした経済・エネルギー強靱化の視点を加えて「AZEC2.0」に進化させる、とした。早速、5月2日のベトナム訪問では、日本政府は第1号案件として、同国ニソン製油所に対する原油調達支援を決定している。

「パワー・アジア」による措置はあくまでも金融支援であり、原油を融通するといった直接的支援ではない。しかし、①中国への依存を高めつつあるASEANの動きを変え得る、②原油備蓄だけでなく日本と連携したエネルギー・資源のサプライチェーン構築の推進が可能になる、という二つの点で、単なるエネルギー支援を超えた大きな意味を持つと言える。

■停滞気味だった日ASEAN経済連携が再強化へ向かう可能性
米中摩擦が激しくなるなか、米中貿易の構造変化によって、迂回や代替生産の場所として選ばれたASEANは、近年、貿易を中心に中国との経済関係を強めつつある。また、脱炭素分野においても、段階的移行を重視した日本より、欧米主導の脱炭素金融、さらには中国の再エネ・EV関連投資の存在感が先行し、日本とASEANとの連携は停滞気味だった。アジアのエネルギー・トランジションを支援する取り組みはいくつかあり、過去、代表的なものにG7主導の「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」があったが、石炭火力廃止などを強く求めるなど欧州の急進的な脱炭素志向が反映され、ASEAN各国の実情があまり配慮されなかったこともあり、ほとんど進展がない。その点において、2022年に日本が提唱したAZECは「各国の事情に応じた多様な道筋の下でネット・ゼロを目指す」とし、ASEAN各国との協調・協力を優先している。さらに「パワー・アジア」を具体策として発表したことで、近年重要性が高まるエネルギー安定供給とサプライチェーン強靱化も重点政策に加わり、AZECはASEAN各国にとってより魅力的な枠組みとなり、停滞気味だった日ASEAN経済連携が再強化へ向かう追い風となっている。

■日本が苦しむ重要鉱物における連携への期待
「パワー・アジア」には、ASEANの国々に対し、原油や石油製品の代替調達や日系企業などに対する生産維持のための支援だけでなく、LNG、バイオ燃料、次世代太陽光、原子力などへのエネルギー源多様化のためのインフラ整備、さらに重要鉱物開発などの産業支援も含まれる。現在の動きは、原油調達をASEANが日本に頼ろうとしていると捉えられがちであるが、より幅広いエネルギー転換に向けた産業育成が連携して行われる可能性が高まったことに注目する必要がある。

とくに重要鉱物における連携は大きな意味がある。日本企業の中国産レアアースへの依存度は依然として高いうえ、2025年末以降は日中関係の悪化を受け、中国政府によって日本向けのレアアースの輸出管理が厳格化され、調達遅延などが生じているとの報道もある。実際、中国の日本向けレアアース、とくに重レアアースの輸出は大幅に減少している。

そうしたなか、世界有数のレアアース埋蔵国であるベトナムとの協調への期待は高い。ベトナムはレアアース埋蔵量が多いものの、生産が増えておらず、採掘、さらに精錬・加工分野において日本の支援が期待される。また、5月17日付日本経済新聞によれば、住友金属鉱山がフィリピンにてレアアース(ニッケル鉱石処理過程にて回収されるレアアースの一つであるスカンジウム)を増産予定とされる。そのほか、フィリピンはニッケルや銅、インドネシアはニッケルやボーキサイトなどの埋蔵量が世界トップクラスにある。さらにインドネシアは、中国の重要鉱物供給網に対抗するうえで重要となる精錬・加工産業にも強みを持つ。

イラン情勢の悪化・長期化を奇貨として、停滞気味だった各国との経済連携が再強化に向かい、とくに苦戦する重要鉱物分野での協力関係が強まっていく公算であるなど、今後の日ASEAN連携の動きが注目される。


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