アジア・マンスリー 2026年3月号
昨年の中国GDPにおける消費支出拡大の解釈
2026年02月27日 室元翔太
中国は2025年のGDP成長目標を達成したが、最終消費支出拡大の寄与が大きい。もっとも、これには政府支援や金融面でのかさ上げが含まれており、消費の実態はGDPとは異なる様相となっている。
■2025年はGDP成長率に対する最終消費支出の寄与が増大
昨年の中国の実質GDP成長率は前年比+5.0%と、一昨年と同程度の伸びを示し、政府が掲げた「5%前後」の経済成長目標を達成した。内訳をみると、トランプ関税の逆風のなかでも、一昨年と同様、外需が高い伸びを維持してきた。
内需に目を向ければ、投資の動向を示す総資本形成の伸びが大きく減速したものの、最終消費支出の寄与度が拡大したことが、実質GDP成長率を底支えした構図だ。もっとも、中国ではコロナ禍以降、消費者マインドの停滞が続いており、消費の力強さは感じられない。本稿では、GDP統計にみられるように、昨年の消費は持ち直しと評価してよいのかを検討する。
■最終消費支出の拡大を主導した要因
速報段階における中国の需要項目別GDP統計は、実質GDP成長率と同成長率に占める各需要項目の寄与度のみが公表されており、需要項目の内訳も最終消費支出、総資本形成、純輸出の3項目に限定される。この段階では、より詳細な内訳や各需要項目の金額などは判明しない。本稿が分析対象としている最終消費支出は、家計消費と政府消費から構成されるが、現時点ではこの内訳は不明である。そこで、家計調査統計を用いて家計消費の動向を確認する。
このうち、実質世帯消費支出をみると、全体で伸びが鈍化している。支出カテゴリごとに動向をみると、食料、衣類など8カテゴリのプラス幅が縮小しているが、唯一、家庭用機器・サービスのカテゴリのみ、プラス幅が大きく拡大したことがわかる。同カテゴリには、各種家電製品などが含まれることから、政府が推進してきた耐久消費財の買い替え促進に関する補助金政策の影響により押し上げられていると考えられる。
また、消費支出全体の鈍化に伴って、家計の貯蓄も伸びを拡大している。ここでの貯蓄は、可処分所得から消費支出を差し引いたものとして算出しており、銀行への預金のみならず、有価証券への投資、保険料の支払いなども含まれる。こうした貯蓄性の支出の一部やそれに伴う手数料支払いも、GDP統計上の最終消費支出に一部カウントされる。昨年央にかけては、株価の上昇や不動産価格の下落ペースの再加速がみられ、株式や保険への投資が拡大したことから、株式購入手数料や保険料支払いが最終消費支出のかさ上げに作用したとみられる。こうした動きを生産側からみた場合、金融仲介業のGDPに計上されることになるが、同セクターのGDPの9割が需要項目上は最終消費支出に分類されている。金融仲介業の実質GDPは、昨年伸びが加速しており、上述のような貯蓄性の支出増加が最終消費支出の拡大に寄与していることが改めて確認できる。
なお、セクター別の実質GDP成長率をみると、昨年、不動産業の実質GDPも、一昨年のマイナス成長から小幅なプラス成長に転換していることがみてとれる。これは、昨年前半、住宅販売に一時的な持ち直しの動きがあり、住宅販売手数料の支払いが小幅に増加したことを反映していると思われる。不動産業のGDPも8割が最終消費支出に分類されることから、こうした影響も家計調査上に表れない最終消費支出の拡大要因となった可能性がある。もっとも、昨年後半以降、住宅市場は大幅な悪化に転じており、本影響はすでにはく落しているとみられる。
上記にみたように、昨年、金融や不動産の特殊要因はあるものの、家計消費は全体としてプラス幅を縮小してきた。このため、最終消費支出の伸びを支えた最大の要因は、政府消費の拡大であると類推することができる。この動きはその他サービス業の実質GDPの拡大に表れている。同セクターのGDPを需要項目別、産業分類別に細かくみると、公共サービスや教育、医療などの政府支出が中心であることがわかる。実際、一般政府の予算支出をみると、昨年の支出全体はプラス幅を縮小しているものの、上述の教育や医療、公共サービスなどに関連する支出は拡大している。
■家計消費の弱含みを政府支援が支える構図
上記を踏まえると、昨年の最終消費支出の伸びは、①耐久消費財の買い替え補助金による家電などの消費拡大、②消費意欲の低迷による貯蓄性支出の拡大、③教育・医療などへの政府の支出拡大、などが影響しており、家計所得の増大や消費性向の上昇による自律的な消費の持ち直しとは異なる要因による部分が大きかったことがわかる。こうした状況は、若年失業率の上昇にみられるような雇用環境の軟調さやそれに伴う消費者マインドの停滞、不動産不況の下での逆資産効果が継続する現状とも整合的といえよう。政府支援がなければ、中国の消費実態は一段と悪化する公算が大きい。自律的な消費拡大が見通し難いなか、本年の耐久消費財買い替え補助金は予算規模が減額となる可能性が出てくるなど、現状の政府支援では不十分とみられる。先行きの消費を占ううえでは、3月に開催予定の全人代に向けて、大規模な追加消費支援策が打ち出されるかがカギとなってこよう。
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