アジア・マンスリー 2022年5月号
低迷が続く2022年の中国経済
2022年04月28日 関辰一
2022年1~3月期の中国経済は前期から減速した。当面、ゼロコロナ政策に伴う厳しい活動制限は続くと見込まれる。そのため、個人消費と工業生産は伸び悩み、景気低迷は続くと見込まれる。
■景気は活動制限の強化により減速
中国の1~3月期の実質GDP成長率は前期比年率+5.3%と前期の同+6.1%から鈍化した。オミクロン株の感染拡大を受けた政府の活動制限の強化を主因に、中国経済は減速している。
政府によると、1~3月期の新型コロナの新規感染者数は4.8万人と2020年1~3月期の8.1万人に次ぐ高水準となった。上海市では、3月に感染が急増し始めたことで、外出が厳しく制限され、地下鉄乗客数は前年同月比▲54.0%となるなど、市内の人出が大きく減少した。世界有数の製造業の集積地である広東省深セン市や江蘇省蘇州市でも厳しい活動制限が実施された。
大都市の経済活動が制限されたことで、マクロで見た個人消費が下振れた。地方政府による地域商品券の配布といった消費刺激策が下支えとなったものの、3月の小売売上高は前月比▲1.9%と8カ月ぶりの減少となった。とりわけ、サービス消費の落ち込みが顕著である。外食は前年同月比▲16.4%と昨年12月の同▲2.2%から減少幅が拡大した。
製造業の生産活動においても、活動制限の強化によるマイナス影響がみられる。たとえば、3月の指標を見ると、活動制限による工場の操業停止や物流の停滞を受けて自動車生産台数が前年同月比▲4.9%と4カ月ぶりの前年割れとなった。半導体の生産量も同▲5.1%と減少に転じた。トラックによる貨物輸送量も同▲4.4%と4カ月ぶりのマイナスとなった。
一方で、石炭の生産量は3月に同+14.8%と昨年12月の同+7.2%から加速するなど、資源や原材料に増産の動きがみられる。この背景として、中国政府が景気てこ入れとエネルギー・原材料価格の抑制に向けて関連分野の企業に供給拡大を指示したことが指摘できる。この結果、3月の工業生産は前年同月比+5.0%と昨年末頃と比べてやや高めの伸びとなり、1~2月の工業在庫も前年同期比+16.8%と高い伸びとなった。
■今後も景気低迷は続く見通し
今後を展望すると、個人消費と工業生産が伸び悩み、景気低迷は長引くと見込まれる。
4月入り後、オミクロン株の感染はさらに拡大している。政府によると、4月1日から17日までの新型コロナの新規感染者数は3.4万人と、早くも1~3月期の合計に迫る数となり、未だに減少する兆しがみられない。これに伴い、厳格な外出制限や営業規制といった活動制限が強化されている。上海市では、地下鉄乗客数がゼロとなるなど、コロナ禍当初の2020年2月に実施された制限より厳しい内容となっている。上海市のみならず、31省・市・自治区のうち約半数の地域で感染が広がっており、厳格な活動制限は広範囲で実施されている。
活動制限の影響で、サービス消費を中心に個人消費にさらなる下振れ圧力が生じている。例えば、国内観光収入は4月の清明節休暇に前年同期比▲30.9%と、本年の春節休暇の同▲3.8%から減少幅が大幅に拡大した。政府は、清明節休暇に続き、5月のゴールデンウィークでも移動制限を課す方針である。
今後、一部の都市で試験的にゼロコロナ政策を緩和する動きが出てくる可能性があるが、中国全体ではゼロコロナ政策が継続する公算が大きい。習近平国家主席は3月17日、政治局常務委員会の会議でゼロコロナ政策の徹底と早期の感染抑制を改めて指示しており、地方幹部が職務を怠って感染拡大を招いた場合、厳しく責任を問うと表明した。少なくとも習近平総書記の去就を含め、指導部の人事が決まる秋の党大会まで、政府は、ゼロコロナ政策により感染の抑制と死者数の減少を最優先する方針を堅持すると考えられる。
今後、ゼロコロナ政策による工業生産へのマイナス影響も統計上で鮮明となろう。感染が報告された地域ではPCR検査や移動制限が強化されており、企業は部材の不足や物流の停滞に直面している。足元でトラックによる貨物輸送量は一段と減少しているほか、上海港の処理能力も4月入り後に低下している。近隣の浙江省寧波港が、代わりに上海港の貨物を受け入れているものの、完全に代替することはできていない。
こうした個人消費と工業生産の伸び悩みから2022年の中国経済は+4%台の低成長になると見込まれる。感染拡大による活動制限の強化を受けて、政府が目標とする「+5.5%前後の成長」の達成はますます難しくなっている。