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アジア・マンスリー 2021年3月号

2021年の中国経済の行方

2021年03月01日 関辰一


中国経済は世界に先んじて回復してきた。今後を展望すると、消費刺激策が活動制限による景気下押し圧力を緩和する一方、投資抑制策により過熱気味の分野の経済活動は徐々に鎮静化するとみられる。

■投資を中心に過熱気味
中国経済は世界経済が停滞するなかでも順調に回復を続け、このところはむしろ過熱気味である。2020年10~12月期の実質GDP成長率が前年同期比+6.5%と、5%程度とみられる潜在成長率を上回る高成長となった。中国のGDP統計は、その信ぴょう性について問題視されているものの、主要国の中国向け輸出や日本企業の中国ビジネスの回復も鮮明である。信頼度が比較的高い中国の貿易統計をみても、資本財輸入はトレンドを大きく上回るペースで拡大するなど、景気過熱を示唆する材料が少なくない。

分野別にみると、国有企業の設備投資で過熱感が顕著である。国有企業は、コロナ禍から早期の景気回復をねらう政府の意向を受けて、設備投資を急ピッチで拡大させている。政府による財政出動や金融緩和も下支えとなり、情報通信業や新エネルギーといったハイテク分野のほか、鉄鋼など過剰設備・過剰債務を抱える分野であってもその傾向は変わらない。

不動産市場も依然としてバブル的な状況である。コロナ禍に対応するための金融緩和を受けて、住宅販売床面積は新型コロナウイルス感染症の流行前を大きく上回る水準へと拡大した。不動産開発企業による乱開発がみられるほか、不動産価格の高騰が問題となっている。

さらに、高級車や高級白酒などの分野も過熱感が強い。自動車購入補助金が地方政府から支給されていること、公共交通機関を避けてマイカーによる移動を選択する動きがみられることなどから、2020年12月の乗用車全体の販売台数は前年同月比+6.6%となった。このうち高級車の販売台数は同+26.0%に達する。この背景として、世界的な資産価格の上昇を受けて富裕層を中心に資産収入が大幅に増えていること、海外旅行などサービス消費が高級車への消費に振り替わっていることなどが挙げられる。

このほか、輸出も大方の想定以上のペースで伸びている。世界規模でパソコンやタブレット、モニター、データサーバーなど情報通信機器の需要が大きく伸びているほか、マスクや医療用品に対する需要も引き続き旺盛である。

他方、感染再拡大を回避するための活動制限によって、サービス消費などでは回復に遅れがみられる。新型コロナ前、前年同月比+8%程度のペースで増加していた小売売上高は、人出が低迷しているため、依然として同+4%台の伸びにとどまっている。

■政府は消費にてこ入れする一方、投資を抑制するスタンス
今後を展望すると、活動制限の強化が景気の下押し圧力になるとみられる。本年入り後、新型コロナの新規感染者数が増加したため、政府は省・市・自治区をまたぐ移動を中心に活動制限を再び強化した。とりわけ、河北省では厳しい活動制限が実施された。また、政府は春節に帰省を自粛するよう呼び掛けた。

ただし、消費刺激策が活動制限による景気下押し圧力をある程度相殺すると予想される。地方政府は、消費刺激をねらい地域商品券や地元の観光地の入場券を積極的に配布している。各省・市・自治区内の活動制限は限定的であったことも相まって、本年の春節休暇の小売売上高は前年の春節対比+28.7%、2019年の春節対比で+4.9%増加した。政府も本年1月、農村部における自動車や家電、家具の購入補助金を拡充すると発表した。

雇用・所得環境が順調に改善していることも安心材料である。コロナ禍からの早期回復を目指すという政府の意向を受け、2020年3月頃から各地で操業再開率の引き上げ競争が激化した。その結果、失業率は早くも同月から低下に転じ、12月には新型コロナ流行前と同等の水準となった。雇用見通しDIが良し悪しの目安となる「50」を上回るなど、先行きの雇用環境も良好との見方が多い。名目可処分所得も2020年春頃から回復に転じ、10~12月期には前年同期比+7.1%増まで回復した。

このようにみると、活動制限の強化と帰省の自粛による景気へのマイナス影響を過度に懸念する必要はないと考えられる。個人消費は底堅く推移するとみられる。
他方、国有企業の設備投資は、政府の抑制姿勢を反映して過剰設備・過剰債務が問題となっている分野を中心にスローダウンするとみられる。すでに、政府が国有企業の社債デフォルトを一部容認したことで、国有企業の社債発行を通じた資金調達の急拡大にブレーキがかかった。

具体的にみると、2020年後半に高位の格付けを得ていた社債の債務不履行が複数発生した。10月に独BMWと合弁を組む華晨汽車集団の社債(格付けはAA-)、11月に石炭大手の永媒集団の社債(AAA)と半導体製造大手の紫光集団の社債(AAA)が相次ぎ債務不履行となった。いずれの企業も過剰な債務を抱えていた。

この背景には、政府が過剰債務を抱える国有企業に対する資金繰り支援を縮小したことがある。景気や企業収益が改善するなか、政府はコロナ禍で中断していたデレバレッジ(債務圧縮)政策へと再びかじを切ったといえる。

社債のデフォルト率は依然として低いため、システミックリスクに至る可能性は低いものの、国有企業の資金調達コストは上昇しており、設備投資を抑制すると考えられる。

また、過熱感がみられる不動産市場についても、投資が減速するとみられる。不動産市場の過熱抑制に向けて、政府は2020年12月31日から住宅ローンの総量規制を実施していることが明らかになった。上海や広州、深センでは、すでに融資額が上限に達したために、住宅ローン業務を停止する銀行がみられる。

金利の面でも、中国人民銀行は市場金利を高めに誘導しており、住宅ローン金利の上昇に反映される可能性がある。本年1月には、馬駿・中国人民銀行金融政策委員会委員が「資産バブルは比較的に大きい」と発言したことで金利の先高観が一段と強まっている。

こうした状況を踏まえると、今後、住宅販売は抑制され、不動産価格や開発投資の過熱感が和らぐと見込まれる。

このように、消費刺激策が活動制限による景気下押し圧力を和らげる一方、投資抑制策は過熱感がみられる分野の経済活動を徐々に鎮静化させるとみられる。消費と投資のバランスを考慮した政策誘導により、今後の中国経済はマイルドなペースで成長を続けると考えられる。2021年通年では、前年の水準が低いため、その反動でやや上振れ、+8.0%成長になると見込まれる。
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