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アジア・マンスリー 2020年3月号

新型肺炎が中国経済を大きく下押し

2020年02月28日 関辰一


新型肺炎の影響で、中国景気は大きく下振れる。とりわけ、個人消費の減少と企業の事業再開の遅れが懸念される。こうしたなか政府は一連の経済対策を打ち出した。

懸念される個人消費の減少
中国では、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を受けて、景気が再び減速している。消費者は旅行や外出を控え、企業は春節休暇明けの事業再開を延期している。

1~3月期の成長率は発表されない可能性もあるものの、大幅に低下するとみられる。とりわけ懸念されるのは、個人消費の減少である。中国交通運輸部によると、春節前後の27日間(1月10日から2月5日)の幹線道路、鉄道、飛行機、船舶を合わせた旅客輸送量は前年同期比35%減少した。その後は、帰省ラッシュが一段落する2月18日まで、旅客輸送量は前年同期比70%減ると予想されている。消費者が新型肺炎に感染することを回避するために自発的に旅行や外出を控えただけでなく、中央および地方政府が交通規制や外出規制を打ち出したことも大きい。

個人消費の内訳としては、ホテルやレストラン、テーマパークや映画館などのサービス消費の縮小が顕著となるであろう。加えて、自動車や家電などの耐久消費財も悪影響を免れない。

ちなみに、SARSは2003年3月から同年7月にかけて中国景気を押し下げた。その際も個人消費へのマイナス影響が大きかった。小売売上高は2003年の1~3月期から4~6月期にかけてそれぞれ前年同期比+9.3%、+6.8%、実質GDPはそれぞれ同+11.1%、+9.1%となった。工業生産も小幅に下振れたものの、固定資産投資と輸入は堅調に拡大を続けた。
当時に比べて、現在は個人消費に占めるサービス消費の割合が高い。そのため、当時よりも個人消費の下振れが大きくなるとみられる。SARS発生時は、中国がWTOに加盟した直後であり、まだ「世界の工場」と呼ばれる前の段階にあった。当時は、設備投資の対GDP比も現在より低く企業部門への打撃も限定的であったが、今回の場合はサービス消費の落ち込み幅次第で、マクロ経済全体に大きな影響を与えるリスクがある。

事業再開を延期する企業
企業が春節明け後に事業再開を延期する動きも景気を下押しする。当初は1月30日で春節休暇が終わり、31日から企業活動が再開する予定であった。しかし、新型肺炎の感染拡大を受けて中国政府は連休を2月2日まで伸ばし、北京や上海など主要都市の地方政府は9日まで業務休止を続けるよう指示した。2月1日から18日まで6大電力会社の1日当たりの石炭消費量は前年同期比▲10%と減少したことは、企業の生産活動が大きく落ち込んだことを示唆する。製造業では新型肺炎が終息した後に挽回生産が行われる可能性が高いものの、非製造業は休業期間の延長による損失を取り戻すことが困難である。そのため、資金繰り難に直面する中小企業が増えていくだろう。

新型肺炎は中国景気だけでなく、日本やその他の国・地域の景気も押し下げている。中国の工場再開が遅れたため、生産調整を余儀なくされた日本企業もある。中国政府が海外団体旅行を禁止したため、中国消費者に人気の日本やタイではインバウンド需要が大幅に減少した。

中国政府は矢継ぎ早に経済対策を発表
新型肺炎が3月いっぱいで終息すれば、中国景気は再び+6%ペースの成長に戻る見通しである。

まず、新型肺炎関連の経済対策が景気の下支えになる。金融面では、たとえば中国人民銀行が2月3日、リバースレポの公開市場操作を通じて、インターバンク市場で1.2兆元の資金を供給した。短期市場金利も低めに誘導した。企業の利払い期限を延長し、企業向け融資の担保要請や金融債の発行条件も緩和した。

財政面では、インフラ投資促進に向け地方債の発行拡大や開発プロジェクトの前倒しが打ち出された。宅配など目下必要なサービスの供給を支援するために、当該セクターの付加価値税の免除を決定した。飲食・宿泊や運輸など需要の落ち込みが大きいサービス業向けには、欠損金の繰越期限を延長した。さらに、医療用品などの供給確保のために、当該分野の製造業の過剰生産分を政府が購入すると発表した。企業収益の下支えや雇用の維持に向け、国有不動産の賃料減免と雇用調整助成金の支給も打ち出した。

加えて、2月12日の国務院常務会議では、地方政府に対して過度な交通規制を緩和するよう求めた。政府の新型肺炎対策チームは、感染のピークが2月半ばとみている。今のところ、政府見立てに近い状況であり、新規感染者の報告数は減少に転じた。このまま行けば、3月以降、交通規制や外出規制を緩和する動きが広がると見込まれる。

以上のような状況を踏まえ、4~6月期から経済活動が持ち直すとの想定で、2020年の成長率は+5.8%と予想される。昨年の同+6.1%から0.3ポイントの減速である。もちろん、新型肺炎の感染拡大が長期化すれば、景気下振れが拡大するため、引き続き事態の行方を注視する必要がある。
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