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景気後退は温暖化対策の救世主なのか

2009年03月13日 佐々木努


 3月10日の日本経済新聞に「素材、CO2排出量1割減、08年度、国全体目標の3割相当」との試算結果が掲載された。各企業の減産に伴い、鉄鋼、化学、石油、製紙、セメントの5業種の08年度の排出量が3,400万t-CO2減少する見通しで、07年度実績から京都議定書の目標水準までの削減必要量のおよそ3割に相当する、という内容であった。

 素材産業の影響力の大きさを改めて認識することができる、興味深い記事であった。短期的には3,000万t-CO2超もの削減となり、京都議定書の目標達成に近づくことは事実である。

 しかし、単純にCO2が減るからといって喜んでばかりもいられない。CO2排出量は減るが、日本企業の多くが掲げる原単位目標値(分子にCO2排出量、分母に売上や生産量をとって得られる指標)は増加に転じる可能性が高い。これは、減産規模とCO2削減量が比例しないためである。固定費のように生産量に関わらず排出するCO2が存在することと、効率的な生産ができなくなることで、原単位数値が悪化するのである。景気好調時には、総量目標を掲げる業界は目標達成が困難であったが、景気悪化局面においては原単位目標を掲げる業界が困難に直面する。

 企業だけではない。国レベルでも景気後退の影響が見られる。たとえば、ハンガリー政府はAAU(京都議定書で定められた各国に割り当てられる排出枠)販売により、国家財政を補填する計画を立てているようである。AAU販売収入は、同国の温暖化対策への投資にあてられる予定であったが、その一部を国家財政補填にあてる計画で、すでに環境団体などから非難の声が上がっている。この動きを景気後退の影響であると断定することはできないが、「景気後退→世界全体の排出量の減少→排出権需要の後退→排出権価格の下落→AAU売却収入の減少→環境投資額の縮小」というパスや、「景気後退→国の財政状況の悪化→AAU売却収入での補填→環境投資額の縮小」といったパスで影響を与えていると考えられる。

 その他様々な面で景気後退が温暖化に対して悪影響を与えている。景気後退は真に必要な温暖化対策の推進をも妨げていると言えるのではないか。
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