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コラム「研究員のココロ」

わが国においてWeb2.0をどのように活用すべきか?

2008年03月10日 東博暢


1.はじめに

 現在、「Web 2.0」が注目を集めている。Web 2.0とは、2004年にティム・オライリー(Tim O'Reilly)らによって提唱された概念であるが、具体的な定義は特に無く、新しいウェブのあり方に関する総称として用いられ、近年ではユーザーのみならず社会全体を巻き込んで持続的に議論されているテーマである。
 Web 2.0の概念が様々に活用され、既存分野(例えば、地域活性化など)の新たなイノベーション(進化)が励起される「Web 2.0革命」が今まさに進行中である。

2.Web 2.0時代に至るパラダイムシフトについて

 まずは、情報革命からWeb 2.0革命に至るまでの、社会のパラダイムシフトの歴史を、現在、世界をにぎわせている様々なサービスの公開の歴史とともに振り返っておく(図表1)。

(図表1)社会のパラダイムシフト概略図

出所:筆者作成


 アルビン・トフラーは、1980年、著書『第三の波』において、社会のパラダイムシフトについての見解を述べ、消費者(Consumer)と生産者(Producer)の融合を予見し、プロシューマー(Prosumer)という造語を生み出した。ニコラス・ネグロポンテは、1995年、著書『ビーイング・デジタル』において、誰もが放送局、メディアになる時代を予見した。(弊社でも、この急激なインターネット革命の流れを受け、1996年に、『エレクトロニック・コマース五つの「神話」』という論文を発表している。)
 彼らの予見どおり、社会は大きなパラダイムシフトを向かえることになる。まずは、情報革命によってもたらされた、「工業社会」から「知識を編集した智恵が価値を持つ時代」である「知識社会」へのパラダイムシフトである。現在では、世界のデファクトスタンダードのようにも思えるGoogle、Wikipedia、Creative Commons、Second Life、MySpace、Flickr、YouTube、FONなどの様々なサービスが登場したのは、実はこの時期である。そして、今まさに次の新たなパラダイムシフトを迎えようとしている。それが、「知識社会」から「知識をいかに有効活用し、智恵に昇華させ、サービス(マーケット)を創造(クリエイト)するか」が問われる「創造社会」へのパラダイムシフトである。

3. 「Web2.0革命」が社会にもたらす影響と創造社会の本質について

(1)なぜWeb 2.0革命がうまくいっているのか?

 さらに一歩、Web 2.0を理解するために、なぜWeb 2.0革命がうまくいっているのかについて考える。これを議論するには、インターネットの持つ3つの特性を理解する必要がある。インターネットの3つの特性とは、<1>ユーザー基点(ユーザーが主役である)、<2>オープン志向(時間や空間を越えオープンに情報や知恵を共有すること)<3>ネットワークの外部性(プラットフォームに参加する人々が多くなればなるほどプラットフォームの価値が高まること)である。これらの3つの特性を最大限引き出しているところに「Web 2.0」の強さがある。そして、そこにこそweb 2.0革命の本質があるのである。

(2)Web 2.0革命が社会にもたらした3つの変化

 では、このような「Web 2.0」の概念が社会にどのような変化をもたらしたのであろうか?
 第1の変化は、「情報における主権者の移行」である。つまり、情報における主権者が完全にサービス提供者側からユーザー側に移行し、サービス提供者側は「常に」ユーザーの動向をうかがう必要性が出てきた。今では、誰でも情報を「収集」、「編集」、「発信」し「共有」でき、個人がメディアに簡単になれる時代になった。
 第2の変化は、「急速な智恵の集積」である。つまり群集の叡智(The wisdom of clouds)や集合知(Collective Intelligence)と呼ばれるように、情報や知識、智恵が急速にユーザーから集結するようになった。
 第3の変化は、社会の構造変化、すなわち、「taxonomy: タクソノミー」から「folksonomy:フォークソノミー」へ転換である。
 Taxonomyとは、サービスの提供者がユーザーに対しコンテンツを階層的分類、整理を行い提供することを指し、folksonomy(folk(人々の,人々による)と taxonomyを組み合わせた造語)とは、ユーザーの手でコンテンツを分類・意義づけを行うことである。
 情報の自由な整理がユーザー側で行われるという社会のフォークソノミー化の流れに伴い、ユーザーがコミュニティやマーケットなど社会に及ぼす影響力は非常に大きなものとなった。その結果、ビジネススタイル、研究スタイルなど様々な分野で、オープン化、ハイスピード化、細分・複雑化が進行し、ビジネス、研究スタイルのみならず組織や社会構造までもが「タクソノミー」から「フォークソノミー」へ対応すべく変革が起こっている。実際、多くの組織が具体的な行動体系として、より多くのユーザーの意見を反映するために自社の枠組みを超えて「ネットワーク化」を図っている。例えば、P&Gの社外機関との技術連携や社外のテクノロジー・アントレプレナーのネットワーク連携を図った「コネクト・アンド・ディベロップ戦略」などは世界的に有名な事例であろう。

(3)創造社会の本質

 このような社会のパラダイムシフトにより、かつて知識社会において、サービス提供者側が全ての情報を握り、情報や知識自体に経済的価値があった時代のビジネスモデル、例えば単純な中間流通モデルは終焉を迎えた。考えてみれば、小学生でも携帯端末で世界の最先端の情報にアクセスできる時代になったのであるから当然であろう。
 ユーザー(顧客)つまり現場によって全ての情報、トレンドが生み出される現在では、いかにして知識を実際の事業に活かし、新たな智恵やノウハウなどを創造し、具体的に「モノ」や事例を作り、社会に価値を提供し続けることでしか経済的価値を生み出しにくくなってしまったのである。さらに、智恵やノウハウも、経済的な優位性を維持する期間が短くなったように思われる。つまり、単純な智恵やノウハウまでもすぐに知識レベルにまで落とし込まれ、共有されてしまうという現実が目前にある。そうなれば、最終的には常に、新たな智恵やノウハウを生み出す「創発的思考」をどれだけ身につけるかが重要になってくるのではないであろうか。
 以上のような状況を踏まえると、創造社会において、本質的に重要な要素は「ものづくりへの原点回帰」ではないだろうか。但しWeb 2.0の概念や創造社会においては「ものづくり」を広義にとらえる必要がある。つまり、「ものづくり」とは、工業社会における電機メーカー・建設業界などに代表される「ハード」のものづくりのみならず、「映像制作」、「音楽制作」、「アニメ制作」などのコンテンツビジネスや、国や地方自治体などの公共マーケットにおける「まちづくり」、ビジネスインキュベーターによる「新規事業創造」などを含んだ幅広い概念としてとらえるべきである。その担い手も「広義のクリエーター(Creator)」としてとらえる必要がある。そして、こうした「ものづくり」は、アイデアやひらめきを具現化し、常に新たなユーザーにやさしいサービスを産み出してきた日本が誇る最大の技術である。

4. わが国におけるweb 2.0活用方針

 では今後、我が国においてweb 2.0はどのように活用されるべきであろうか?最近「なぜ日本でGoogle、YouTube、Second Lifeが生まれないのか?」などというネガティブな議論をよく耳にする。しかし、「欧米が巨大投資(当然莫大な回収はしているが…)をしてプラットフォームを整備し、しかもオープンソース化された、便利なツールをいろいろ開発してくれたのであれば、日本は、それをうまく使いこなせばよい。」と、ポジティブに考えてもよいのではないか?
 こうした思考は、かつての高度成長期における日本のお家芸であったはずである。欧米が開発したツールを使い、複雑化した社会に対して、最適でかつユーザーに親切なきめ細かなサービスを作る、という発想に切り替え、今後のWeb 2.0活用についての検討を行っていきたい。

次稿では、Web 2.0時代におけるマーケット組成の3つプロセスを考えた上で、『「Web 2.0」を切り口とした官民協働(PPP)の創出について』について述べることとしたい。
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