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コラム「研究員のココロ」

ニートはなぜニートになったのか

2006年04月03日 齊木大


 ニート対策が進められている。国が平成17年度から実施している「若者自立塾」事業をはじめ、都道府県や市町村でもニート支援の取り組みが始まっている。一方、ニートの増加を防止する対策としては、教育課程におけるキャリア教育が推進されている。職業意識を醸成し、就業意欲を喚起しようとするものだ。
 しかし、職業意識の欠如だけが、ニートになってしまう理由なのだろうか。ニート対策を進めるにあたり、ニートになる原因として他に着目すべきことものはないかを、改めて考察する必要があるのではないだろうか。本稿では、筆者が昨年来行ってきたニート対策に関する調査をもとに、ニートがニートになった背景について考察を行いたい。(注1)

1.ニートとは
 ニートという言葉は、「団塊世代」と同じくらい、イメージが先行してしまっている言葉である。その代表的なイメージとしては、「就業意欲もなく、就業経験もない若者」というものがある。しかし、統計からは、必ずしもこう言い切れないことが分かる。そこで、まずニートの定義と属性について確認しておきたい。
 ニート(NEET)とは「Not in Employment, Education, or Training」の頭文字をとったもので、イギリスにおいて、教育課程にも職業訓練課程にも属していない13歳から19歳の若年無業者を指した言葉である。内閣府統計では、「就職したいという意思表示をしているが、求職活動は行っていない者(非求職型)」と「就職したいという意思表示をしておらず、求職活動を行っていない者(非希望型)」に分類される15歳から34歳までの若年無業者を合計したもの、とされている。
 ニートの総数は、2002年時点で約85万人(注2)であり、そのうち就業意欲を示している「非求職型」は50.4%である。また、ニート全体の65.5%は、過去に就業していた経験を持っており、その割合は1992年の53.8%から10ポイント以上増加している 。(注3)
 以上から分かるように、イメージに反して、実際は就業意欲があったり、就業経験があったりする者が多く含まれているのだ。こうした人たちがニートになった経緯は、職業意識の欠如だけでは説明が難しい。ではなぜ、就業経験や就業意欲があるにも関わらず求職活動に踏み切れないのか。筆者は、その原因には、ニートがニートになった経緯が関係していると考えている。

2.ニートはなぜニートになったのか
 ニートはなぜニートになったのだろうか。ニートに関する文献(注4)や筆者が行ったニート支援NPOのスタッフへのヒアリングをもとに考察する。
 第一に、正社員としての就業経験を持つニートについては、正社員としての業務における仕事量やプレッシャー、スピードの速いコミュニケーションなどになじむことができず、働く自信を喪失した結果、ニートになったという経緯が見えてくる。全く負荷のない働き方などは、どこにもないだろうが、働き方に関する向き不向きや、受け止めることができる仕事の大きさは一人ひとり異なる。このタイプのニートは、そのミスマッチが生んだ結果だといえる。特に、就業経験が少ない若者の場合、自らの特性やキャパシティーを認識し、調整する方法を身につけていないことも影響していると考えられる。企業における従業員のメンタルヘルスケアが注目されているが、ニートの増加防止の観点からも重要な取り組みなのである。
 第二に、フリーターとしての就業経験を持つニートについては、フリーターから正社員へ転ずることが非常に困難な現状が影響していると考えられる。正社員と比べ、身分が極めて不安定なフリーターの場合、長期的な見通しを立ててキャリアアップを図ることが難しい。企業は中途採用に即戦力を期待するが、フリーターが日常の業務を通して習得できる職業スキルは少なく、中途採用においてフリーター経験が有利に働くことはほとんどないのが現状である。正社員になりたいという希望は強いにも関わらず、それが困難であることに気づき自信や意欲を喪失してしまい、ニートになったという経緯が見えてくる。
 このように、ニートがニートになった経緯から考察すると、働き方と一人ひとりの特性やキャパシティーとのミスマッチと、フリーターから正社員に転ずることの困難さという構造的課題が指摘できる。こうした構造的課題の影響を受け、結果的に働く自信を失ってしまったのがニートなのである。

3.最後に
 ニートは構造的な課題から生まれた無業者であるにも関わらず、これまで公的な支援があまり行われてこなかった対象である。学生の就職におけるミスマッチ減少には学校が、学卒失業者やフリーターの就業支援にはヤングハローワークやジョブカフェなどが取り組んできた。しかし、求職活動を行っていないニートは、把握が難しく、公的支援が届きにくい存在なのである。
 ニートの増加を防止するための対策としては、これらの構造的課題に対応する施策が必要だろう。それには行政や支援機関だけでなく、雇用の受け皿となる企業を巻き込む必要がある。
 また、これらの構造的課題はニートだけに関係する課題ではなく、フリーターや学生などを含めた若者全体に関係する課題でもある。教育・職業訓練・職業紹介・保険などの各種施策は、それぞれに実施主体や権限が分散しているが、ニートへの社会的関心が高い今、若者の雇用全体を視野に入れ、本質的な雇用政策に取り組む機会だと言えるかもしれない。

以上



(注1)本稿では、主として就業経験を持つニートについて、その経緯の観点から指摘しているが、ニートの中には教育課程から不登校やひきこもりの状態にあり、就業経験も求職活動経験もないタイプのニートもいる。本稿では触れていないが、このタイプのニートの場合、構造的支援だけでなく、カウンセリングや家族への支援などを含め、一人ひとりを手厚く支援する必要がある。

(注2)経済産業省「平成16年版労働経済白書」では、ニート総数を52万人としている。ニートの定義の違いに基づくものであり、その差の主たるものは「家事」の取扱である。本稿では、就業経験・就業意欲に関する引用の関係上、内閣府調査の定義を記載した。

(注3)内閣府「青少年の就労に関する調査」(2005)

(注4)若年無業者やフリーターへのヒアリング調査や実態に関する文献としては、労働政策研究・研修機構「自由の代償/フリーター」(2002)、玄田有史「ニート」(2004)、小杉礼子「フリーターとニート」(2005)などがある。
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