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Business & Economic Review 2009年5月号

【特集 人口減少下の都市・地域の再生】
都市形成政策の抜本的見直し-人口減少に備えた国土利用の必要性

2009年04月24日 調査部 ビジネス戦略研究センター 主任研究員 藤波匠


要約

  1. 人口や世帯数の減少、地場産業の地盤沈下、さらにはものづくりの現場を襲う昨今の経済危機などにより、今後地方の疲弊は加速することが予想される。とりわけ、従来地方経済をリードしてきた中核的な都市を中心に、地方の都市では拡散・低密度化(スプロール)が進み、経済効率性や生活利便性が低下している。また、拡散した都市に分散して行われている非効率的な公共投資は、財政負担を高め、それに伴い住民福祉の水準も低下している。本稿では、土地利用の観点から、地方都市が抱える課題の構造を明らかにするとともに、都市の設計図たる都市計画法などの問題点をあぶり出し、その抜本的な見直しの方向性を示す。

  2. 人口減少の進展に伴って用地需要が減退するなか、これまでの土地利用のあり方のままでは用地供給に歯止めがかからず、結果として用地の過剰ストックが増加していくことが予想される。用途別に見れば、以下の通りである。

    ≪住宅地≫
    地方では、人口や世帯数の減少が、一般に想定されているよりも速く進行し、住宅地需要の減退が顕在化してくることが予想される。一方で、農地転用などにより郊外における住宅地の供給圧力は依然高く、住宅用地は過剰供給の状態が恒常化する。また、都市中心部と郊外の住宅地価格差が小さくなってきていることが示唆する通り、住宅地ニーズは郊外で高い。一方、中心市街地では、高齢化が一層進むとともに、地域の住環境の向上も図りにくいため、結果として徐々に虫食いのように空き家や空き地が発生し、住宅地としての魅力は一層低下していく。

    ≪商業地≫
    地方の中核的な都市の中心商店街では、長期にわたり商圏が縮小しており、商業活動の重心は郊外のショッピングセンターなどに移りつつある。コンパクトシティに向けた取り組みの一環として、商店街の活性化が進められているが、かつての商圏を復活させることは容易ではなく、昔賑わったエリア全体の再興は困難である。

    ≪工業地≫
    製造業からサービス業への産業構造の転換、中小企業の撤退・廃業、工場の海外移転や国内集約などにより、準工業地域や工業地域において用地の過剰が生じている。開発規制の緩さが工場や事業所の跡地の再開発を促す一方、無秩序な開発のターゲットとなることが懸念される。

  3. 直面する人口減少や産業転換に対応できず、地方都市で用地の過剰ストックが生ずる背景には、開発志向が強く、農地の転用抑制を指向していない都市計画制度や農地関連法制など、現行のわが国都市形成政策における基本理念が時代の要請から大きくずれてきていることがある。

  4. したがって、社会経済状況の変化に対応した土地利用を進めるためには、こうした基本理念を改める必要がある。新しい時代が求める地方都市のグランドデザインを示せば、郊外の新規開発が抑制され、投資が地域の中核的な都市に集中することで、公共施設や商業施設が再び回帰し、用途が混在しつつも、それにより活性化し魅力を向上させるというものとなる。こうした地域の中核的な都市を中心に、周辺集落とのネットワークが強化されることで、地域全体の効率性と持続性の両立が達成される。

  5. 上記のようなグランドデザインに基づく都市を構築するためには、a.土地の都市的利用に関する一元的土地利用法制の確立、b.郊外に向かうに従い開発を抑制する持続可能な都市の発想、c.ゾーニング的発想から有機的用途混在によるモザイク都市形成へのシフト.などに、わが国の都市形成政策の方針を大きく転換することが求められる。また、こうした法整備とともに、公共施設の都市中心部回帰や、賃貸重視の住宅政策なども必要となる。これらは、農地を含めた郊外における新規開発を抑制し、都市中心部に投資を引き戻すための、国土利用法制の抜本的な改革を行うものである。

  6. 地方では、世帯数の減少や今般の経済危機を契機として、国主導の政策パッケージに頼ることなく、都市における経済効率性や生活利便性を高め、それを梃に地域の成長へと結び付けていく、新たな成長戦略の構築が求められる。国は、そうした地方の取り組みをサポートするために、速やかに国土利用関連法制の抜本的改革に着手する必要がある。
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