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Business & Economic Review 2009年7月号

【STUDIES】
金融危機後のアメリカ・クレジットカード市場の動向

2009年06月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里



要約

  1. アメリカでは、金融と実体経済がスパイラル的に悪化するもとで、金融機関は軒並み大きな痛手を被っており、経営破綻も相次いでいる。そのなかにあってクレジットカード発行業務は、金融危機の
    当初こそ堅調を維持し金融機関の収益を下支えしたものの、実体経済の落ち込みが深刻化するにつれて不良債権が増加し、収益が急速に悪化している。

  2. こうした状況下、金融機関はクレジットカード発行業務において融資姿勢を一挙に慎重化させている。返済金利の引き上げや与信枠の引き下げが広く行われているほか、カード口座の閉鎖に踏み切る金融機関も出てきている。こうした措置はカード会員に非がない場合でも行われており、経済が先行き不透明感を増すもとで各金融機関とも先回りして対応しようとしていることが確認される。これにはクレジットカード発行業務が、a.無担保・無保証のローンでありリスクが高い、b.マス層向け商品としてある程度機械的な対応が求められている、という特性を有することが密接にかかわっている。さらに、カード会員を巡る獲得競争のなかで、入会のハードルを下げて可能な限り多くの会員を囲い込む一方で、リスクの度合いに応じて返済金利や与信枠を決定するなど、徹底したリスク管理が行われていることとも関連する。

  3. 今回の金融危機を契機とした金融市場の混乱のなかで、アメリカン・エクスプレスおよびディスカバー・ファイナンシャルが銀行持ち株会社に業態転換した。これによってアメリカのクレジットカード業界では大手ノンバンクがすべて消滅したことになる。市場の成熟化でコスト管理が従来以上に重要になったことや、デビットカードが近年、急成長していることが、ノンバンクを相対的に不利な立場に追いやった。

  4. 今後を展望すると、クレジットカード発行業務には以下の三つの逆風が吹くことが予想される。
    a. 家計部門のデレバレッジング:家計部門では債務が持続不能なレベルにまで積み上がっており、先行きへの不安も加わって債務削減圧力が高まっている。試算によれば、家計部門の債務削減は早くても2011年央、遅ければ2013年央まで続くと見込まれる。債務削減の中心は住宅ローンではあるものの、借り入れ全体が抑制されるなかでクレジットカードにも影響が及ぶのは必至である。
    b. 規制強化:2008年12月にFRBなど三つの金融規制監督機関がクレジットカードに対する規制強化策を発表した。2010年7月から実施される予定であり、返済金利の変更に大幅な制限が加えられるなど、クレジットカード発行業務の柔軟性を損なう内容となっている。このため、金融機関は業務c. 会計基準の変更:金融機関は2009年11月以降、資産のオフバランス化が難しくなる。クレジットカードのローン債権の5割は証券化を通じてオフバランス化されているだけに、それができなくなることで業務コストが上昇し、中長期的にみた収益性の低下につながる公算が大きい。

  5. アメリカでのクレジットカード発行業務に対する規制強化は、世論の強い要望に基づいている。この背景には、前述のようにカード会員の個々の事情によらない返済金利の引き上げや与信枠の引き下げはもとより、各種のペナルティ手数料の徴収強化に対する世論の反発がある。日本でも改正貸金業法が消費者金融会社に対する世論の反発によって実現した。日米で同様の動きが生じていることで、個人向け無担保・無保証融資、あるいはサブプライム層向け融資の難しさを改めて意識せざるを得ない。

  6. 日米の経験からは、貸し手が顧客に対して十分すぎるほど配慮することがいかに重要であるかが浮かび上がってくる。顧客の短期的な返済力はもとより、中長期的なwelfare(福利)をも視野に入れて、それらを収益拡大やリスク管理とバランスさせていくことを常に考えなければならない。日本の銀行やクレジットカード会社が消費者ローンやリボルビング返済に注力するに際して、こうした点を強く意識することが、世論からの高い信頼を維持するうえで重要となる。

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