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Business & Economic Review 2009年6月号

【特集 諸外国の放課後対策~学力低下と学童保育問題へのアプローチ】
アメリカにおける放課後活動の特徴と日本への示唆

2009年05月25日 総合研究部門 岡元真希子



要約

  1. 米国の「放課後活動」は、法律などで定義されているわけではないが、業界の基準や教育省の関連調査から総合的に判断すると、概ね幼稚園~8年生、年齢にすると5歳~14歳が対象となっている。放課後活動に参加しているのは、上記年齢の子どもたちの約2割にあたる、650~700万人と推定されている。

  2. 放課後活動は、より広義の概念である「放課後ケア」の一形態として位置づけられる。放課後ケアは「親によるもの」とそれ以外に大別され、学校や拠点が提供する「放課後活動」は親族やベビーシッターなどによる世話と並ぶ「親以外によるもの」の一つである。米国では保護者の責任という面から、満12歳未満の子どもを子どもだけで置いておくことを法律で禁止している州が少なくない。このため「放課後活動」だけでなく、世話や保育など「ケア」を含めて放課後を理解する必要があると考えられる。

  3. 放課後活動の具体的な内容は、芸術やスポーツ、学習指導などが多く、青少年の居場所づくりや非行防止という効果が期待されている。特に貧困地域の成績の低い学校に通う子どもを対象に、学校外の時間帯に教育の機会を提供する拠点が多く存在する。具体的には、国語や算数などの中核的な学力水準を高めるもの、芸術やスポーツ、レクリエーションなどのアクティブなもの、活動に参加している子どもの家族の学習支援などがある。また、移民などの英語力の乏しい子どもに対する補習、ITリテラシーを高めるための教育、麻薬・暴力の予防プログラム、カウンセリングなども行われている。

  4. 米国において、学校外の時間は機会でもあり、リスクでもあると指摘されている。平日の午後3時から6時の間が、少年犯罪に巻き込まれ、また麻薬・アルコール・タバコ・性交渉の誘惑を受けるピークの時間帯であると言われている。逆に、放課後を安全かつ有益な活動に充てることによって、この時間帯が「機会」にもなる。学校の補習に加えて、実験や芸術活動など学校で提供されない多様な学びの機会として期待されている。さらに、青少年の健全育成や学習機会ということに加えて、放課後活動でのスポーツと健康的な食習慣の獲得を肥満防止につなげることに期待する声もある。放課後活動がもたらす影響については、特に低学年・低所得層では、学力や学習意欲の向上、感情コントロールや対人関係能力の向上、問題行動の減少などの効果を認める研究成果が報告されている。

  5. 米国で放課後活動を推進する背景事情として、放課後の時間が「リスクとチャンス」の両面を併せ持つ時間帯であり、この時間帯の過ごし方が社会的格差の原因の一つになっているという指摘がある。有益な放課後活動プログラムに参加できる地域や家庭の子どもたちが学力や才能を伸ばす一方で、プログラムが提供されていない地域や利用料を負担できない家庭の子どもは放課後の時間帯に非行に走ったり、10代未婚で妊娠するなど、放課後の過ごし方が格差を益々広げ、格差社会の再生産が起こりかねない。このような格差を縮めるためにも、米国教育省は貧困層の多い地域でのプログラムに資金支援を行っている。貧困層の多い地域では学校教育の質の面においても不利な状況にあり、放課後活動でこれを補うことが期待されている。数学や国語などの学校教育の延長線上の補習を行うと同時に、英語を母国語としない移民に対する補習教育も行っているのがこの例といえる。

  6. 放課後活動は、年少児ほど「保育」の側面が強く、年長児では、教育ならびに非行防止という性質を強く帯びる。日本の学童保育はこの「保育」の側面に注目するため、低年齢層のみが対象となっているが、教育格差の是正や青少年の健全育成という面に注目すると、米国のように小学校高学年あるいは中学生ぐらいまで、年齢階層をより幅広く設定することも選択肢として考えられる。ただし対象年齢を引き上げ、米国のように学力向上の面を強く打ち出しすぎると、豊かな多面性を持つ放課後活動のある一面だけが強調され、学校教育の延長に過ぎないものになりかねないため、この点には留意が必要だろう。

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