コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 2009年2月号

【STUDIES】
わが国銀行業における環境配慮への取り組み

2009年01月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 野村敦子


要約

  1. 近年、地球温暖化問題をはじめとして環境問題に対する社会的な関心が高まっており、企業から個人のレベルに至るまで、環境に配慮した活動を行っていくことが求められている。環境保全への取り組みを促進させるための政策的な手法には、「規制的手法」、「経済的手法」、「情報的手法」、「自主的取組」などがあり、これらの手法を適切に組み合わせることで、より高い効果を追求するポリシーミックスが模索されている。そのなかでも、金融の機能を活用して、各主体の環境配慮活動を促す手法が注目されている。具体的には、環境保全事業には金利優遇など経済的なインセンティブを付与し、逆に環境に悪影響を及ぼす事業については、資金の供給を見合わせることで、環境配慮行動の誘因もしくは環境負荷活動の歯止めとして機能することが期待されている。

  2. そもそも、わが国の金融機関が環境問題を強く意識するようになったきっかけは、環境法制の施行ならびに環境関連リスクの拡大にある。とりわけ、土壌汚染対策法の施行が与えた影響は大きい。金融商品としての不動産、あるいは担保としての不動産が汚染されている場合には、価格下落リスクや費用負担・賠償責任リスク、レピュテーションリスクなどが発生する。このため、金融機関は環境規制の動向を注視しつつ、こうした環境リスクに対応していかなければならない。新BIS規制においても、同様に、環境リスクを考慮する必要に迫られている。また、企業会計においては新たに、「環境債務」を計上することが定められ、企業も金融機関も、環境リスクを数値として把握し、開示することが求められるようになりつつある。

  3. 金融機関の環境問題への取り組みは、規制への対応や事業リスクの一つとしての環境リスクへの対応といった側面ばかりではない。企業の社会的な責任として、「経済」「環境」「社会」が調和した持続的な成長を目指すことが求められている。金融機関に対しても、株主や機関投資家、市民団体等のステークホルダーから、金融の機能を環境や社会的な問題の解決に積極的に活用することが要請されるようになっている。そうした「金融の環境化」に向けた国際的な動向としては、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)の「環境と持続可能な発展に関する金融機関声明」や、プロジェクトファイナンスへの資金供給について環境配慮を求める「エクエーター(赤道)原則」、機関投資家の投資方針にESG(環境、社会、ガバナンス)を組み込むことを求める「責任投資原則」などがある。わが国の金融機関のなかにも、こうした国際的な行動規範に参同・参加するところが出てきている。

  4. このように環境問題に対する社会的な関心が高まるなか、これを事業機会として積極的に捉え、新商品・サービスの開発やブランド力の向上に活用しようとする動きも出てきている。わが国の金融機関が取り扱っている環境関連の商品・サービスには、a.エコ預金、エコファンドなどの運用商品、b.環境配慮型融資、環境格付融資などの融資取引、c.排出権取引を活用した金融商品、などがある。排出権取引については、小口化した「排出権信託」や、商品・サービス代金の一部で排出権を取得し国に無償譲渡する「カーボンオフセット商品」など、環境をキーワードとして工夫を凝らした商品も登場している。

  5. このように、金融機関の環境配慮行動に対する社会的な要請が高まっているといえるが、その背景を今一度整理すると、次の通りである。第1に、金融機関の業務は公共性が高いことから、一般企業以上に経営の健全性や信頼性が求められており、環境保全やコンプライアンスなどCSRへの取り組みについても、要求される水準が高まっている。第2に、金融機関がリスク管理に取り組むうえで、環境リスクへの対応は不可欠の要素となっている。第3に、金融機関や企業のブランド力や企業価値の評価の際に、財務面に加え、環境保全やコンプライアンスなどの非財務的面も考慮されるようになっている。加えて、金融機関の環境問題への取り組みは、以下の効果があると考えられる。第1に、企業の省エネや省資源などへの取り組みに対する投融資は、企業のコスト削減や生産性の向上を促すことに繋がる。第2に、新しいエネルギーや技術の開発などへの投融資は、企業が新しい市場を開拓する契機になる。第3に、排出権取引市場など「環境」の概念を取り込んだ新しい金融取引は、金融機関にビジネスチャンスをもたらすことになる。

    海外の先進事例を見ても、国際的に評価の高いHSBCなどは、環境・社会問題への配慮を事業活動の中に組み込み、環境に起因するリスクの最小化および事業機会の最大化を図るための体制整備を行っている。

  6. わが国においても、企業や金融機関における環境問題への取り組みは着実に進展しているといえよう。しかし、単なる「社会貢献」として位置付けて取り組んでいるだけでは、環境への配慮が企業活動の中に定着し、大きく広がることにはつながらない。金融機関や企業の活動のなかに、本来的な意味でのCSRを根付かせていくためには、経済的な果実と環境面・社会面での責任の履行とのバランスをどのようにして取っていくかが重要な課題となっている。そのような視点から、今後、金融機関が環境金融に取り組んでいくうえで考慮すべき点としては、a.いかに本業に環境配慮の視点を取り込むか、b.環境関連商品について段階的な見直しの必要性、c.環境方針の明確化と評価体制の整備、d.金融機関等の取り組みに対する政策的な支援の必要性、などが挙げられる。

    また、環境問題は地域の住民や企業にとって身近で関心の高い問題である。地域に根ざした活動を行う地域金融機関にとって、環境問題への取り組みは、企業の社会的責任はもとより、地域社会のニーズに応えるという点からも、今後一段と重要になってくると考えられる。わが国独自の環境金融というものを広く定着させていくためには、地域金融機関がメガバンクとは異なる視点から、地域に根ざした活動の輪を広げていくことが一考に値するといえるのではなかろうか。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ