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Business & Economic Review 2008年11月号

【STUDIES】
産業別国際比較からみたわが国の労働生産性低迷の要因分析-小売・サービス業の生産性引き上げに向けた戦略

2008年10月25日 調査部 主席研究員 山田久


要約

  1. 少子高齢化が本格化するなか、わが国が経済成長力を維持・向上していくには生産性の向上が重要課題。このところ、格差問題に焦点があたるなか、再分配政策への関心が高まっているが、そもそも再分配の原資となる国民所得を増やすためには生産性の向上が不可欠。ミクロ的にみても、企業業績の改善ひいては従業員賃金の増加の前提となるのが生産性の向上。そうした問題意識から、本稿では概念的にシンプルかつ計測上簡便である「労働生産性」に注目し、産業別国際比較の視点からその引き上げ策について検討。

  2. わが国の産業別労働生産性の動向を、a.日米欧比較(欧州はイギリス、ドイツ、フランス、イタリア)、およびb.時系列比較(最近と第1次石油危機後比較的安定的な成長を遂げた時期を比較)の観点から分析。国際比較からは「わが国の第3次産業は生産性伸び率が低い」という通説が確認可能。
    時系列視点を加えれば、近年のわが国の生産性低迷の主因は商業およびサービス業の停滞。就業者シェアからみても、商業およびサービス業の生産性向上が重要課題。

  3. 非製造業での生産性低迷に対し、わが国の製造業については国際競争力があるとの見方が通説。しかし、製造業の労働生産性上昇率が全体では低下していないのは、低生産性セクターのシェアが縮小して高生産性セクターのシェアが高まった結果であり、個々の業種別にみれば必ずしも生産性上昇率は加速しておらず、製造業全体でみた付加価値創造力も低下しているのが実態。a.製造業に対する第3次産業からの投入割合が拡大する傾向にあること、b.製造業の雇用吸収力には限界があることも踏まえれば、製造業のみの生産性向上に過度に依存することは限界に。

  4. 小売業の生産性の状況をみると、90年代末以降、労働装備率が大幅に上昇した半面、設備効率は大きく低下したため、生産性が伸び悩み。90年代末以降の超低金利の継続と低賃金労働力の増加という環境の下、出店規制の緩和を契機とする郊外での出店競争の激化が、結果として小売業における過剰店舗・過剰雇用を生み出した形。中長期的に金利体系の正常化、正規・非正規賃金体系の均衡化により、過剰店舗・過剰雇用を解消していくことが小売業における生産性向上の条件。人口減少の進展を展望して、都市機能の集約化を促すことも小売業の店舗効率改善を側面支援。

  5. 「金利・賃金体系の正常化と都市機能の集約化」は、小売業の生産性向上を促す一方、小売業での雇用吸収力の低下を意味。政策的には、小売業に代わる新たな雇用機会を提供する必要。そうした観点から、産業別付加価値構成の国際比較を行うと、わが国では生活関連サービス業、なかでも医療・福祉、教育のシェアが小さいことが目立つ。a.都市機能の集約化を進める都市計画の実施、b.医療・介護・教育・保育分野における規制改革を通じた競争促進、c.ワークライフバランス支援、d.職業能力開発への積極的支援により、小売業での生産性の向上と同時に、生活関連サービスの成長・人材育成を促す必要。

  6. 生活関連サービス産業の成長は小売業での生産性向上との関係から重要であるが、サービス産業自身の生産性向上という観点からは、生活関連サービス産業よりも事業関連サービス産業で大きな余地。
    国際比較を行うと、わが国の事業関連サービス産業のシェアは小さい。そもそも事業関連サービス産業の存在意義は顧客企業の業務効率を改善させることにあることからすれば、わが国における事業関連サービス産業の未発達は、ホワイトカラー部門を中心に企業の業務遂行プロセスの効率化・合理化が遅れていることと表裏一体の関係。

  7. ホワイトカラー業務革新=事業向けサービス業の生産性向上のためには、日本企業が「開放的自律型組織」の構築を目指し、a.オフィス・ワークスタイルの再設計、および、b.「自律型プロフェッショナル人材」および「プロデューサー型経営人材」の育成に主体的に取り組んでいく必要。

    事業関連サービス業にはその際の「啓蒙役・先導役」としての役割が期待されており、外資系企業のノウハウの取り込みや、プロフェッショナル人材の育成に注力する必要。政策は側面支援に過ぎないが、民間の自助努力を誘発する全般的な競争環境を整備することに加え、a.企業ニーズを踏まえたプロフェッショナル人材育成を支援する専門職大学院制度の改革、b.ITシステム整備のための税制支援、c.テレワークなど柔軟な働き方を円滑化する労働法制改革などが求められる。
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