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Business & Economic Review 2008年07月号

【REPORT】
排出権取引の概要と最近の動向

2008年06月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. 排出権取引は、温室効果ガスの排出削減を低コストで効率的に進めるための仕掛けである。排出権取引には「キャップ&トレード」と「ベースライン&クレジット」という二つの基本方式をもとに、さまざまなバリエーションが存在する。

  2. 京都議定書には、いわゆる京都メカニズムに基づく国際排出権取引制度が定められている。そのもとで実施されたプロジェクトはすでに3,500件近くに上る(2008年4月末時点)。わが国もこの制度に組み込まれており、電力、鉄鋼、商社などが排出権の取得に動いている。

  3. 一方、わが国にはEU-ETS(EU排出権取引制度)のような強制参加型のキャップ&トレードは導入されていない。しかし、京都議定書の削減目標の達成が厳しいことや、他の先進諸国でキャップ&トレードが広がりつつあることを背景に、導入の検討が始まっている。とりわけ、欧州に続いてアメリカでも導入に向けたモメンタムが高まっており、さらに欧米でキャップ&トレードの共通ルールづくりに向けた動きが始動している状況下で、わが国がいつまでもキャップ&トレードの蚊帳の外にとどまるのは得策ではないとの見方が広がっている。

  4. わが国が強制参加型のキャップ&トレードの導入を決めた場合に最大の争点になると予想されるのは、企業への排出枠の割り当て方法である。割り当てには「オークション」、「グランドファーザリング」、「ベンチマーク」の三つの方式があるものの、どれも一長一短があり、すべての企業が納得できる形で割り当てを行うのは極めて難しい。

  5. 近年の排出権取引はEU-ETSが牽引している。EU-ETSは2005年の制度開始以来、取引量、取引金額ともに6倍に膨張し、その結果、EU-ETSでの取引は2007年に世界の排出権取引量の7割、金額ベースでは8割近くを占めるまでになった。排出権取引は相対が主流であるものの、取引の拡大に伴って取引所取引も増加している。

  6. 地球温暖化や排出削減への関心が高まるなか、排出権にかかわるさまざまな新しい商品が登場している。例えば、排出権信託商品は排出権の取得のハードルを大幅に引き下げ、これまで排出権の購入が難しかった小口需要の掘り起こしに寄与すると予想される。また、カーボン・オフセット商品は一般市民が手軽に排出削減に貢献できるとあって急速に注目を集めている。一方、運用商品としてリターンを得つつ地球温暖化に貢献したいというニーズに応えるために、排出権連動債券や排出権指数に連動する投資信託が公募で販売されるようになっている。

  7. ポスト京都の帰趨次第で京都メカニズムに悪影響が及ぶ可能性は排除できないものの、京都メカニズムの枠組みの外でも排出権取引が拡大する公算が大きいことを踏まえると、排出権取引そのものは今後一層拡大・発展していくと判断される。
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