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Business & Economic Review 2008年02月号

【STUDIES】
サブプライム危機と金融機関のリスク管理の在り方

2008年01月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. アメリカのサブプライム層向け住宅ローンの焦げ付きに端を発した今回の危機には、二つの特徴を見出すことができる。第1に、危機が世界中の多岐にわたる分野に波及したことである。危機の震源地がアメリカであった点や、証券化およびグローバル化が急速に進展している点が要因として指摘できる。第2に、危機の中心が金融機関であったことである。金融機関のリスク管理体制は近年、相当強固になったとみられていたものの、実際には不十分であったことが、今回の危機で明らかになった。

  2. 今回のサブプライム危機では、一つの市場で起こった混乱が別の市場に影響を与える形で市場混乱のドミノ現象が生じた。事態を悪化させたのは、a.CDOの適正価格の算出が難しいうえ流動性が低いことから生じたプライシングの問題、b.RMBSやCDOへの投資判断における格付けへの過度の依存、c.金融機関やヘッジファンドへの資金売却圧力、などである。

  3. 今回の危機の根本的な要因として、金融機関のリスク管理が不十分だった点が挙げられる。まず、サブプライムという極めてハイリスクな顧客層を対象としているにもかかわらず、ここ数年で融資基準が次第に引き下げられ、著しく安易な貸し出しが横行した。
    また、金融機関は証券化商品のリスクを十分認識していなかった。この点は投資家全般にも当てはまる。格付けには限界があり、しかも複雑な証券化商品であるRMBSやCDOではなおさらそれを強く認識しなければならない。それにもかかわらず、両商品への投資が活発化するなかで格付けの限界が忘れ去られ、逆に絶対視されるようになった。

    金融機関はさらに、オフバランス取引の信用リスクを過小評価していた。オフバランス化によってバランスシートの悪化を懸念することなく相当程度自由に業務を展開できたことが、金融機関のリスク選好を高める一方、そうした業務に付随するリスクを十分認識していなかったと推測される。

  4. アメリカの金融機関がサブプライム層向け貸出業務において痛手を受けるのは今回が初めてではなく3回めである。1回めは1990年代末に生じた不良債権問題であり、90年代半ばにサブプライム層向け住宅ローンが急成長した際にリスク管理が不十分であったことによる。2回めは2000年代初に、サブプライム層向けクレジットカード分野において不良債権問題が生じた。カード業界は高度なモデルを用いてサブプライム層向けのリスク管理に成功していたかにみえたものの、景気後退局面でそのモデルの限界が露呈した。

    この2回のケースでは、現在ほど証券化市場が発展していなかったこともあり、波及影響は相対的に小さかった。しかし、サブプライム層向け業務のリスク管理の難しさやオフバランス化のリスクについては、過去2回のサブプライム問題ですでに経験したことである。一方、クレジットカード業界では不良債権処理が一服した後はサブプライム層の取り込みを再開し、現在ではサブプライム層は重要な顧客層の一つを形成している。このことからも、今回の危機がサブプライム層というよりもリスク管理の問題であったことが示唆される。

  5. 今回の危機を受けてすでにさまざまな対応策が官民双方で講じられている。もっとも、危機の中身が複雑であることなどを踏まえると、事態の収束には相当な時間を要するとみておくべきであろう。
    さらに、a.住宅市況の悪化に伴いローン債権の焦げ付きがサブプライム層以外にも及ぶ、b.商業用不動産市況も落ち込む、c.金融機関がSIVやABCPコンデュイットの資産をバランスシートに大量に取り込まざるを得なくなる、などの事態が生じる可能性も否定できない。そうなると、金融機関の不良債権が大幅に増加して自己資本が毀損し、最悪の場合、90~91年以来の本格的なクレジットクランチに発展する恐れがある。

  6. LTCM危機への反省から金融機関のリスク管理が見直された。その結果、カウンターパーティー・リスクを中心に金融機関のリスク管理体制に向上がみられたものの、その一方で、複雑化する金融取引にリスク管理体制が追いつかないうえ、リスクを回避するために導入した対策が新たなリスクを生み出していることが明らかになった。これらの点は今回のサブプライム危機でも当てはまる。このように、金融技術の発達に伴い金融にかかわるリスクが従来以上に複雑化する状況のもとで、すべての分野で常に最新の技術を駆使してリスク管理を行っていくことが次第に難しくなっている。しかしそれでもなお、リスク管理に向けた不断の努力が金融機関に求められる。
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