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Business & Economic Review 2006年12月号

【STUDIES】
急がれる金融教育への取り組み:アメリカの経験に学ぶ

2006年11月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. 「金融リテラシー」とは、金融に関する基本的な知識を持ち、それをもとに適切な意思決定ができることである。金融リテラシーは持って生まれたものではなく後から身につけるものであり、身につける手段の一つが金融教育である。

  2. 個人はこれまで、金融に関して主体的に動く必要性がそれほど強くなかったこともあり、十分な金融リテラシーがなくても通用した。しかし、今後は以下の点により教育を通じて金融リテラシーを身につけることが重要となってくる。
    a.金融資産の管理・運用における自己責任と自助努力の重要性の高まり
    b.金融商品および販売チャネルの多様化・複雑化
    c.多重債務問題の解消

  3. 翻ってアメリカでは、古くから金融監督当局やNPOなどが主体となって金融教育が行われてきた。そこへ1990年代入り以降、家計のバランス・シートの悪化などに伴い本格的に取り組まれるようになった。アメリカの金融教育の特徴としては、a.担い手が多様である、b.さまざまな個人を対象とした多彩なプログラムが用意されている、c.教育内容が実践的である、d.近年、連邦政府の関与が強まっている、などの点が挙げられる。

  4. アメリカでは金融教育の本格化に伴い、その効果を計測しようとの試みがなされている。各種の調査や実証研究の結果、まず、金融に関する知識と行動、および金融教育と金融知識には各々相関関係があることがわかった。金融教育の効果がとりわけ大きいのは、社会人を対象に特定の目的を持って行われる場合であった。一方、学校での金融教育に関しては、具体的な知識の習得という面では十分な成果が上がっていない。しかしながら、金銭管理や貯蓄の重要性など金融の基本理念については理解が進み、社会に出た後の行動にも好ましい影響を与えることが明らかになった。

  5. 以上を踏まえると、わが国でも未成年期にまず基本コンセプトを学んだうえで、成人後の人生の折り目ごとにさらに詳しく学んでいくという金融教育の在り方が望ましいといえよう。

  6. 金融をめぐるアメリカの個人の状況はわが国に比べてはるかに深刻である。その点をもって、アメリカの金融教育はわが国の参考にはならないとの議論も可能である。しかしながら、程度の差はあれ方向としてアメリカが経験している事態にわが国の個人も向かっている。アメリカでの取り組みを理解し、それを参考にしつつわが国独自の取り組みを強化していくことは意義があると判断される。
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