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Business & Economic Review 2006年10月号

【STUDIES】
「団塊」世代引退で加速する消費構造の変化

2006年09月25日 調査部 マクロ経済研究センター 主任研究員 小方尚子


要約

  1. 本稿では、今後10年程度を視野に入れ、「団塊」引退が消費市場に与える影響について展望した。

  2. 「団塊」引退は、高齢人口の増加を加速させるが、今後10年を展望すると、高齢者層は人数が多いだけでなく、フロー(所得)、ストック(資産)の両面において従来以上に「豊かな高齢者」となり、消費市場におけるプレゼンスを高める見通しである。フロー面では、a.社会保障制度を通じた所得移転、b.継続就労による賃金稼得、c.団塊世代の退職に伴う退職一時金、が高齢者の受け取るキャッシュを増やす。一方、ストック面では、a.保有資産規模が現役世代に比べ大きいこと、b.企業経営における株主重視の姿勢の強まりや金利回復傾向に伴い、高齢者の財産所得(配当・利子)が増えること、が追い風となろう。

  3. 人口の年齢構成がマクロの消費市場の基盤的成長力を緩やかなものにとどめるなかで、シニアマーケットの相対的な重要性が高まろう。高齢世帯の消費の特徴、団塊世代の世代的特性、意識等をみると、「リフォーム分野」「医療・健康」「家事等代行」「冠婚葬祭」「ギフト」「時間消費」型の趣味・娯楽活動が成長分野として期待される。最低限の住居修繕、医療を除けば、選択的な支出であり、売上確保には新奇性、品質面等での差別化が重要な分野である。

  4. 世帯の在り方についても、高齢化、少子化、核家族化・単身化といった変化が加速しよう。このうち、単身高齢者世帯の増加は、人口の減少による消費市場の縮小を緩和する。内容をみると、住居費、光熱費など世帯人員よりも世帯数に比例する傾向が強い費目が牽引すると考えられる。

  5. 今後、高齢化が進むと、高齢者層ほど所得格差が大きいため、日本社会全体の格差が拡がることになる。高齢者自身も格差を強く認識しており、企業にとっては、消費者を所得水準、嗜好等によって細かく分類し、グループごとにあった商品・サービスを提供する動きを強めることが一層、必要になるといえる。また、富裕層向けの商品を、“ややリーズナブルな”価格の商品にアレンジするなどの形で広範囲の消費者に販売していく戦略は、依然として有効であろう。

  6. 今後の高齢者市場で注目されるポイントとしては、a.心身ともに求められる「若さ」、b.「費用対効果」のわかりやすさ、c.可処分時間拡大により潜在ニーズが高まる時間消費型サービス市場で顧客の満足度を高める工夫、が挙げられよう。

  7. 高齢化は、世帯の在り方、ライフスタイルの多様化も加速させ、消費市場に、a.需要の多様化、個性化、b.家庭内サービスの外注化という大きな二つの流れをもたらすだろう。商品の個性化は、コストが増大しやすいため、企業は個性化ニーズ市場の規模とコストのバランスを模索し続けることになろう。家事・家庭内機能の「ペイドワーク化」も新たな市場を生むが、在宅を中心とするこうしたサービスの質、安全性の維持・向上には、監督機能の確保も必要である。見守りサービスなど、すべての人に一定水準の確保が必要な分野については、行政、NPOなどの組み合わせにより、セーフティネットを構築していくことも課題である。

  8. わが国の消費者は、これまでにも「世界一うるさい顧客」として企業に高品質の商品・サービスの提供を促してきたが、今後は、さらに世界でも突出したスピードで高齢化が進むなか、新たに生まれる高齢化社会での消費者ニーズを示していくことになる。変化する消費者のニーズを、市場と行政がどう分担すべきかをもみるテスト・フィールドとしても世界から注目されていこう。こうした意味で、日本市場での成功には、企業は独自性、創造性を問われるが、日本に続き高齢化する多くの海外諸国に成長のフィールドが広がる点では、新たな成長のフロンティアであるといえよう。
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