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Business & Economic Review 2006年08月号

【STUDIES】
アメリカ・クレジット・カード業界における会員維持およびメイン・カード化策

2006年07月25日 調査部 金融ビジネス調査グループ 主任研究員 岩崎薫里


要約

  1. クレジット・カード会社に共通する経営課題として近年、一段と重要性を増しているのが、カード会員を維持するとともに、彼らが自社カードをメイン・カードとして他社カードを上回って頻繁に利用してもらうことである。各社ともその実現に向けてさまざまな知恵と工夫を凝らしている。

  2. アメリカのクレジット・カード・イシュアーの間でも近年、カード会員の維持および自社カードのメイン・カード化に向けた取り組みが強まっている。その背景には、a.カード保有の一巡などにより新規会員の獲得が困難になっている、b.一人当たり平均保有枚数の増加に伴い、カード会員が増加しても従来ほどには収入の増加につながらなくなっている、c.リボルビング返済の利用が伸び悩みに転じている、などの点が挙げられる。

  3. アメリカでの具体的な取り組み例としては、主に以下の5点が指摘できる。
    (1)特典プログラムでの工夫:特典プログラムのカード利用への影響について分析が進んだ結果、プログラムの効果を上げるための工夫がなされるようになっている。特典への交換に向けたハードルを引き下げて特典と頻繁に交換できるようにする、あるいは比較的早期に特典と交換できることでポイントやマイルの蓄積が途中で放棄される可能性を減らす、などがその例である。

    (2)プレミアム・カードの導入:高所得者向けのプレミアム・カードとしてVisaはSignature Card、MasterCardはWorld Cardの販売促進に注力している。これは、高所得者はカード利用額が大きいうえ、相対的に価格感応度が低く、さらに、高所得者の人数自体が増加しており、市場として魅力を増していることが背景にある。

    (3)会員維持策としてのクロス・セル:カード会員が自社・自行で複数の取引を行っているほど、他社に移りづらくなるという観点から、既存カード会員を維持する方策としてクロス・セルが着目されている。もっとも、とりわけ金融商品のクロス・セルに関しては実現が容易でないのが実情である。

    (4)コール・センターの活用:既存カード会員を維持し、会員から最大限の収益を確保する方策として、コール・センターの活用が試みられている。個々のカード会員の収益性を算出し、それに応じてコール・センターでの対応を変える方法や、会員からの電話すべてにおいて顧客満足度の最大化を目指すケースなど、さまざまな取り組みがなされている。

    (5)購買データの活用:クレジット・カード会員の維持およびカード稼働率の向上のために、会員のカード利用に関するデータを収集・分析して会員の行動パターンや嗜好を把握し、それをもとに会員に対してクロス・セルやアップ・セルを試みる、あるいは会員にとって魅力的な優待サービスを加盟店と共同で提供することなどが行われている

  4. これらの取り組みに共通するのが、「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」の視点である。日本のカード業界でも大手を中心にワン・トゥ・ワン・マーケティングがすでに展開されているが、アメリカの事例も参考としつつ、それを一層強化することがメイン・カード化の実現に貢献すると判断される。その一方で、カード会員からロイヤルティーを得る難しさも十分認識しておく必要がある。日米ともクレジット・カードのコモディティー化が進むなか、生半可なロイヤルティー向上策では効果が小さく、ブランド戦略の強化などの対応策を併せて講じる必要があろう。
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